拡大続ける音楽フェス事業、進化の鍵はデータ収集と顧客分析による「カスタマイズ」

2019年4月27日、カリフォルニア州パームスプリング近郊のインディゴで開催されたステージコーチ・ミュージック・フェスティバル。出演者のサム・ハント。(Photo by ETIENNE LAURENT/EPA-EFE/REX/Shutterstock)

熱烈な音楽ファンのやるべきリストは、以前よりも選択肢が増えた。コーチェラ、ボナルー、ロラパルーザにガバナーズボール、あるいは星の数ほどもある似たり寄ったりの巨大音楽フェス。だが、カリフォルニア州インディゴでカントリー版コーチェラフェスとして行われたステージコーチ・ミュージック・フェスティバルに行った人々は、今年はいつもと違うもてなしを受けた。

先月、ステージコーチ・フェスの参加者のうち約20パーセントが、安いチケットのアップグレードや関連グッズの特別販売、ルーク・ブライアンやレナード・スキナードといったアーティストのステージ中に配布される限定ディスカウントといった特典を携帯メールで受け取った。100ドルのVIPチケットへのアップグレードを手にした観客もいた。こうした特典は無作為にばら撒かれたわけではない。もっとも熱心かつ忠実なファンを特定すべく、ステージコーチの親会社AEG Presents社の精鋭チームが何カ月もかけて行った、詳細なデータ収集と分析のたまものだ。

2017年、世界的エンターテインメント企業AEGグループ内での存在意義を高めようという動きから、AEG LiveからAEG Presentsに社名変更した。同社は毎年1万以上のイベントと30以上のフェスティバルを主催している。飽和状態にある昨今のライブイベント市場で幅を利かせるLive Nationやその他大手興行会社同様、彼らも均一化という問題に直面している。

「誰もがInstagram用に同じような写真を撮影して、同じようなグッズを買って帰ります」と言うのは、AEG Presents社のデジタル主任を務めるブルック・マイケル・ケイン氏。ステージコーチ・プロジェクトのリーダーでもある彼女は、ローリングストーン誌の取材にこう答えた。「我々は毎年、『どうすれば進化できるか? 自分たちが望むもの、他人に伝えたいと思うものがここにあると顧客に感じてもらうにはどうすればいいか?』といった大きな課題に直面しています」

ケイン氏はApple MusicやBeats、Interscope Recordsなどでデジタルマーケティング部を率いた後、2016年、新設された現在のポストに就任した。彼女は昨年末、AEG社内やAEG傘下のGoldenvoice社からプロダクトマネージャーやアナリストを集め、6人からなるチームを結成。さっそくコンサートの参加者を「あっと言わせ、喜ばせる」ための新しいアイデア作りに取りかかった。数々の戦略を検討した結果、熱心なファンに突然ショートメッセージを送り付けるというアイデアにたどり着いた。「あれはまさに、ピーン!ときた瞬間でした」 とケイン氏。「我々が考えていたのは、『どうすればファンの履歴を活用して、彼らが欲しがると思われるものを与えることができるのか?』ということです。この戦略がユニークなのは、観客から贔屓にしてもらおうとするのではなく、観客に還元して、我々のほうが観客を贔屓にするという点です」

Translated by Akiko Kato

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