現場目線で振り返る、2010年代の日本語ラップシーン座談会

渡辺:国内のバトルシーンは、今後どうなっていくと思いますか?

伊藤:90年代にKREVAが「BBOY PARK」のMCバトルで3連覇した頃から見てるけど……良い悪いは別にして、完全に別ジャンルになったと思ってる。今のバトルはもはや、お笑いに近い。「M-1」とか「キングオブコント」みたいに、いろんな大会があるのもそうだし、バトルで有名になったラッパーがバラエティ・タレント化したり、CMに起用されたりするケースも多い。ラッパーの活動の幅が広がるきっかけになったとも思う。

渡辺:ただ、バトルシーンは別物だとも思いつつ、やっぱりそこからBAD HOPやWeny Dacillo、Hideyoshiとか、音源でヒットするタイプのMCが出てきてるのも事実ですよね。そもそも、個人的には音源やバトルといった単語でアーティストを分類するような言い方は好きではないですが。


M-6POから改名し、Normcore BoyzやWeny Dacilloを擁するクルーTokyo Young Visionに所属するラッパーのHideyoshi。2018年に初音源『Never Be the Same』をリリース。

伊藤:バトルに集うラッパーには、大きく2タイプあって、ひとつはこれまで話してきたようにバトルという現場から有名になり、アーティスト活動に繋げようとするタイプ。もうひとつは、純粋にバトル〜フリースタイルが好き/得意でそういった現場を主戦場として選んでいるタイプ。BAD HOPたちは、タイプとしては前者にあたる。また、いくら若いラッパーが出やすい環境になったとは言え、10代のラッパーにとっては今でもシーンに参入するにはまだ壁が高いわけですよ。経済的な事情もあるし、クラブに入るのだって年齢制限があるから容易ではない。そういう子たちにとっては、バトルにそこまで興味がなくてもバトルしか出る場所がない。

CHA:曲を作るにしても、ビートをどうするかとか知らないわけだしね。

TA:だからこそ、BAD HOPやWenyはバトルに出て名前を売ったわけだよね。

伊藤:実際、そういうタイプの人たちは、(成功/知名度が上がると)バトルに出なくなりますよね。

渡辺:Hideyoshiも典型的ですよね。

TA:あと、最近はビートもトラップで、DJタイムもずっとトラップで、出演者もトラップ好きが集まるバトルもあるらしいですよ。それは行ってみたいですね。

渡辺:バトルでいつも聴くビートって、AKLOの「RGTO」とか……。

伊藤:(韻踏合組合の)「一網打尽」とかね。

渡辺:ありますよね、バトルヒット。

TA:去年出したアルバムに入ってるビートも、「バトルビート」としてYouTubeに上がってますよ。T2KとZeusの曲なんですけど(「Straight Outta Tokyo」 )、そういう順序でPVのリンクが貼ってあって。



渡辺:アーティストが狙ったところではない場所でバズる、というのは、例えばTikTokで曲がバズるのと同じような感じなのかな……。

伊藤:日本のヒップホップが独自に生み出した一大コンテンツがフリースタイルバトルですよ。それまでのミックステープやビート・ジャックとかは、全部USヒップホップのマネでやってたことですけど、バトルはUS発祥でもその進化の仕方は日本独特。

渡辺:そこからBAD HOPも出てきたわけですからね。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE