個人的な悲しみを「時代の声」へ昇華させたアリアナ・グランデの歩み、いくつもの傷跡と涙を再検証

この頃からアリアナのパーソナルな物語は、SNS以降の共感をベースとした大きな物語と強くシンクロするようになっていく。テロ事件以降の心境を含め、個人的な視点を通して社会や時代を描く4thアルバム『スウィートナー』は彼女が“本物”になろうとしていることが誰の目にも分かる脱皮作となった。

だが、その矢先にかつての恋人にしてラッパーであるマック・ミラーが薬物の過剰摂取によって死亡。またもやアリアナは意気消沈し、さらにはその死の責任が彼女にあるという心ないバッシングを浴びてしまう事態に。

だがまたもやアリアナは音楽とともに立ち上がる。歴代の元カレたちへの感謝とともに自分は次に進むことを宣言するシングル「サンキュー、ネクスト」をリリース。攻撃に対し反撃するのではなく、感謝とユーモアを持ってかわし、悲しみを未来への希望に変換する同曲は、無数の争いが可視化されるSNS時代の気分と完全にシンクロした。男と女の対立を煽るのではなく、相手を認め感謝しながら高みを目指そうとするその姿勢は、個人の恋愛を通し#MeTooの「次」を描こうとしているかのようですらあった。



同曲を収録した5thアルバム「サンキュー、ネクスト」は全12曲が全米チャートのトップ50にランクイン、そしてリード曲がトップ3を独占し、1964年のビートルズが持つ記録と並ぶ快挙を成し遂げ、名実ともにアリアナを時代の主役に押し上げた。

デビュー以来ずっと恋愛を主なモチーフとしたパーソナルな楽曲を歌い続けてきたにも関わらず、彼女を取り巻く環境は大きく変わった。これは「LOVE & PEACE」のような大きなスローガンが力を持ちづらい時代における、パーソナルなストーリーテリングの有用性を示しているようでもあるが、それは分析的すぎる。単純に一人の人間が強く美しくあろうとするその姿が、我々の胸を打つのだ。

Edited by The Sign Magazine

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE