さようなら、そして、ありがとうiTunesーー音楽をデジタル時代へと牽引したAppleの功績

2014年:U2が世界にアルバムを強制配信

2014年のある日、目を覚ますとiTunesのライブラリになぜかU2のアルバムが勝手に入っている、という事態を5億人ほどの音楽ファンが体験した。「強制的無償ダウンロード」という手段を通じてAppleはアイルランドを代表するロックバンドの新作アルバム『Songs of Innocence』を当時の全iTunesユーザーに配信したのだ。iTunes Music Storeのリリース当時からこのメディアにおいて欠かせない存在であったU2とAppleの両者にとっていい話となるはずだった。「できる限りたくさんの人々に聴いてもらいたかった」とU2のマネージャーのガイ・オセアリー氏はローリングストーン誌に語った。音楽プロデューサーのジミー・アイオヴァイン氏は、この戦略の裏にある心理をこのように説明している。「ロックにはもはや時代精神と呼べるものがない。だからこそ、U2は慣習に逆らおうとした。そのためには、使えるものはすべて使うべきなんだ」。

だが、iTunesユーザーには大不評だった。米WIRED誌のライターをはじめ、一部の人々はU2からのプレゼントを「スパムよりもひどい」と非難し、一瞬だけ、U2はアメリカでもっとも嫌われたバンドになってしまった(「ご希望の場合は、U2の『Songs of Innocence』をiTunesライブラリと購入済みプレイリストから削除できます」という回りくどい言い方ともに配信から1週間以内にAppleはライブラリからアルバムを削除する方法を発表した)。



その1ヶ月後:ボノがU2のアルバムを強制プレゼントしたことを謝罪

「しまった」と1ヶ月も経たないうちにFacebookのQ&Aを通して強制ダウンロードについて質問されたボノは言った。「申し訳なかった。すごくいいアイデアだと思って、内輪で盛り上がってしまったんだ。いくらかの誇大妄想、ほんの少しの寛大さと自己宣伝、そしてこの数年にわたって心血を注ぎ続けた楽曲を聴いてもらえないかもしれない、という強い恐怖……アーティストというのは、どうもそういう風に考えてしまいがちだから。世間はノイズで溢れている。どうやら、アルバムを聴いてもらうのに必死になり過ぎて、僕らもそんなノイズになってしまったようだ」。

Translated by Shoko Natori

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