研究室育ちの鴨ムネ肉、その味は? スタートアップも続々参入する代替肉産業の内幕

広義の意味での「代替肉」製品は、近年アメリカで急激に勢いを増している。(Courtesy of Memphis Meats)

米カリフォルニア州バークレー、ジューススタンドとコーヒー豆の自家焙煎店に挟まれた一角にMemphis Meats社の研究室がある。

アリス・ウォーターズが経営する食農一体型レストラン、シェ・パニースからもそう遠くない。閑静な並木通り沿い、改装されたばかりのレンガの建物の中では、科学者たちが食肉生産のありかたを分子レベルで、つまり完全に再構築している。彼らの斬新なアプローチは、バークレーの持続可能な食育運動を支えてきたパイオニアたちの哲学を受け継ぎつつ、それと同時に根底から覆すものでもある。

2015年、インド生まれの心臓専門医ウマ・ヴァレティと、幹細胞を専門とする生物学者ニコラス・ジェノヴェーゼが共同設立したMemphis Meats社は、生きた動物から採取した少量の筋肉細胞や脂肪、結合組織のサンプルを使って、研究室で食肉を生産する世界初のスタートアップ企業だ。「我々は、従来の肉となんら変わらない小売製品を製造し、かつ屠殺の必要性の排除を目指す、水畜産会社です」。ラボを訪問する前、ヴァレティは電話でこう言った。

彼はさらに、彼のラボで育てた、いや「培養した」細胞は、動物から切り離されてはいるものの「生きている」と付け加えた。たしかに細胞は生きている。彼が培養した筋肉組織に刺激を与えると、収縮やけいれんなどの反応が見られるのだ。シャーレの中でのたうっていた培養肉を供給すると考えると、気味悪くて豆腐コーナーに駆け込みたくなりますね、と私はヴァレティに言った。だが彼は、私の気を静めてくれそうな長所を列挙した。「培養肉は、細胞レベルでは動物の肉とまったく同じです。味も栄養価も同じ、もしくはもっと良くなる場合もあります」

全世界の牛肉、豚肉、鶏肉の生産および消費量はこの30年でほぼ2倍に膨れ上がり、2050年までにはさらに倍増すると予測されている。なかでも危ぶまれているのが牛肉だ。長年調査を重ねた結果、赤身肉を食べることでアメリカの湖水が枯渇し、疾患の危険が増大し、放牧のために手つかずの熱帯雨林が破壊され、地球温暖化を加速させていることは、私も十分理解している。全世界の温室ガス排出量のうち、畜産業が占める割合は15パーセント。全交通機関の排出量を合わせたものよりも多い。食用として飼育された動物の大半が、まともな環境で育てられていないことにも心が痛む。

Translated by Akiko Kato

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