フジロック×サマソニ運営対談 フェスと洋楽文化を支える両者のリアルな本音

フジとサマソニが手を取り合おうとする理由

―では、スマッシュとクリマンは良きライバルみたいな?

高崎:ですね。そういう話でいうと、僕自身はプロモーターとして、クリマンに対する思いは少しずつ変わってきた部分もあって。

―というと?

高崎:お客さんもそうだと思うんですけど、フェスのラインナップについて語り出すと、「フジに取られた」「サマソニに取られた」みたいな話になりがちじゃないですか。僕も新人だった頃はその感覚が強かったんですよね。「サマソニがなければ、もっといいブッキングができたのに!」と歯がゆい思いを何度もしてきて。もちろん、呼べなかった理由は他にもあるし、SMASHの人間が全員そう思ってたわけではないだろうけど。

安藤:フジのブッキングはいつから担当されてるんですか?

高崎:大阪(SMASH WEST)で99年に入社したあと、2004年に東京に移ってからですね。でもそれ以前から、「ミューズは呼ばないんですか?」「リンキン・パークはこのキャパだと狭いんじゃないですか?」みたいに口を挟んでいて。その頃、僕がすごくやりたかったのがザ・ミュージック。「大阪で騒いでるヤツがいる」と社内で話題になり、先輩にツアーをやってもらったりして。でも私は制作ではないのでツアーは回れなくて。

その後は、自分でフジのブッキングを担当するようになり、ジェットやシザー・シスターズを呼びました。その頃はフジに出演させることができた、できなかったなど自分のなかで結構意識していましたね。でも、2010年あたりになると考え方が変わってきて。「自分でやりたかったけど、今年はサマソニで見ればいいか」と思うようになりました。

―それはなぜ?

高崎:こちらの都合だけで言えば、フジ一強のほうがアーティストを自由にブッキングできるし、フェスとしての質も高められるかもしれない。だけど、それだと驕ってしまいそうな気がするんですよね。サマソニがあるおかげで、「こんなのやられた、悔しい!」「もっと新人を発掘しないと!」「今年はいいのを作るぞ!」と発奮材料にしながら、お互いが切磋琢磨してきたのは大きかったと思うんですよ。

あとはもう一つ、フジとサマソニがもしコケてしまったら、洋楽マーケットが日本からなくなりそうな気がしていて。「日本の洋楽文化を守る」という言い方は語弊があるかもしれないけど、これからも続けていくためにはバチバチじゃダメだなって。そんなふうにマインドが変わってきたんです。

安藤:僕もここ数年、どうやって洋楽を盛り上げていこうかすごく考えていて。フジが1997年、サマソニが2000年に始まった頃とは状況もまったく違いますしね。邦楽系のフェスも増えてますし。

高崎:正直、洋楽アーティストのギャラは桁が違うし、(邦楽フェスより)コストは遥かにかかります。それにも関わらず、こちらがソールドアウトにすることができず、かたや邦楽フェスが大盛況と聞くと、やっぱり悔しいなって。

―とはいえ、洋楽不況は深刻ですよね。

高崎:レコード会社の方と話しても、どんどん厳しくなってきてるようです。そういう傾向はフェスの運営にも反映されるもので。昔だったら洋楽の目玉アーティストが、フジかサマソニにタイミングよく出演する流れがあったじゃないですか。だけど、「海外で売れてるけど日本には呼べない」というケースが、ここ5年くらいで顕著に増えていて。そうなると、人気の格差はますます開いてしまうし、本当に呼ぶチャンスがなくなってしまう。

安藤:そういう話も含めて、海外のアーティストが日本に来る意味合いも変わってきた気がします。

高崎:そうだよね。さっきの「取った取られた」でいうと、最近はフジでもサマソニでもなく、海外のフェスに行っちゃうアーティストが多いんですよ。日本経済の低迷もあって、こちらとしては最大限のギャラを提示しても「安い」と言われ、シンガポールの大きなフェスとか、中国のお金持ちが主催する個人イベントに取られてしまう。昔はアジアといえば日本が一番で、なんとしても来たがるアーティストが後を絶たなかったのに、すっかりポジションが変わってしまった。

―フェス以外でも、最近は日本飛ばしのアジアツアーをよく見かけます。

安藤:フジとサマソニは洋楽フェスとして始まって、今もその形で続いていますけど、サマソニに関してはここ数年で日本人アクトの割合がかなり増えているんですよ。海外の若いバンドからも「サマソニに出たい」と売り込みはあるんですが、昔みたいに出れば話題になる感じでもなくなってきていて。そういう若いアーティストを僕らがフックアップするときは、その後どうやって大きくしていくのかプランを練らないと、洋楽の盛り上がりを取り戻すのは難しいのかなと。

高崎:そういう状況だからこそ、フジとサマソニが協力しながら、洋楽フェスの存在感を高めていかないとマズいなって。この対談もその一環ですよね。それぞれのフェスについて知ることで、新しい出会いのきっかけにしてもらいたいです。

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