「自分には耽美的な要素を持っている作品がしっくりくる」─小説では『ドリアン・グレイの肖像』(オスカー・ワイルド)や『地獄変』(芥川龍之介)、『眼球譚』(ジョルジュ・バタイユ)などを挙げてくださいました。みの:中二病かよ、っていうセレクト……(笑)。その辺りの小説は、確か高校生の時にいわゆる名作と呼ばれる文学を読むようになったんですよね。ほんと、ベタで恐縮ですが『異邦人』(アルベール・カミユ)や『変身』(フランツ・カフカ)、『カラマーゾフの兄弟』(フョードル・ドストエフスキー)……。そのうち、自分には耽美的な要素を持っている作品がしっくりくることに気がついて。『金閣寺』(三島由紀夫)を読んだのもその頃ですね。
─澁澤龍彦あたりもきっとお好きですよね?みの:もちろん。バタイユは確か光文社の新訳版から、澁澤の旧訳にも手を出し「こっちのほうが硬質で、より唯美的なところが出てるなあ」と思いました。
「フィジカルな音楽を、どれだけ今の世代に伝えられるか」─さて、現在のみのさんの活動は、ご自身のバンドであるミノタウロスでの音源制作と、YouTubeチャンネル『みのミュージック』の更新、それから音楽イベント『ミノロック』の主催と多岐にわたっていますが、そうした活動を通してどんなことを実現したいと思っていますか?みの:やっぱりロックンロール……ひいてはフィジカルな音楽を、どれだけ今の世代に伝えられるか? ということですね。そのためのリソースを人より多く持つ者という意味でいうと、自分は結構上のほうにいると思っているんです。かなり若い世代にリーチできるようになっているので、なるべく還元したいんですよね。
たとえば、耳の肥えたオーディエンスが数十人しか集まらない小規模イベントよりも、スリーコードのロックンロールを3000人のティーンエイジャー相手に聴かせるほうが、大局的に見たら意義があるのかなと。もちろん、あくまでも「僕がやるべきこと」として考えた場合の話ですけど。
・【MV】ミノタウロス「路傍の石」
─先日、豊洲PITで開催された『ミノロック4』に行かせてもらったのですが、ミノタウロスのようなオーセンティックなロックンロールバンドに、黄色い声援が飛びまくっているのは本当に衝撃でした。確かに今、こんなことができるのはみのさんだけかもしれないですね。そして、もしあの場にいたティーンたちが「ロックンロールとは何か?」を知らなかったとしても、何年かあとになって様々な音楽を聴いた時にきっと役にたつのではないか、それこそまさに「還元」だなと思いました。みの:そうですね、そうなったら本当に嬉しいことだなと思います。
「サンプリング以降の音楽を聴いた上で、ロックへ挑んでいく」─今後、どんなことをやっていきたいですか?みの:今、ミノタウロスでやっている音楽は、僕の中では最もオーソドックスな部分なんですよ。チャック・ベリーやボ・ディドリーを聴いた時の原体験みたいなところからやっていて、徐々に影響をもらっている年代を上げて、サイケの時代やハードロックの時代というふうに、それぞれのスタイルを取り入れていく予定なんです。で、今は60年代が終わって70年代に入るくらいの時期で、これからは僕が想像する並行世界に分岐するつもりです。
─つまり「ロックが別の進化を辿ったとしたら?」という仮定で楽曲を作るわけですね。面白そうです。みの:昔の音楽を、どれだけ上手く再現するか? みたいな伝統芸にはなりたくなくて。新しさがちゃんとありつつも、僕がかっこいいと思える「現在進行形のロックンロール」を作りたい。様々なイディオムを解体し再配置したら、聴いたことがないけどなぜか懐かしい、みたいなところへ行けるんじゃないかと期待しているんです。
─なるほど。みの:たとえばリズムにしても、2003年頃に「Beat Detective」というプラグインが登場して、リズムを簡単にグリッドで合わせられるようになったんですけど、その時期と、ロックがチャート上で元気がなくなっていった時期がほぼ一緒。
ガチガチにビートをエディットした、ちょっと窮屈な音楽にロックが進んでしまったんですよね。ただし、やっぱり僕は人間的なグルーヴを、いかにモダンなサウンドの中に残せるか? というところにこだわりたいし、そこがロックの肝なのかなと思っているんです。
─ヒップホップやニューソウルのアーティストたちが、リズムのヨレみたいなものをエレクトロミュージックに取り入れている一方で、元々は肉体的なグルーヴを内包していたロックミュージックがヨレを排除した機械的なリズムへと向かっていったのは、ちょっと皮肉な感じがしますよね。みの:そうなんですよ。リズムへの意識の高さという点では、ロックではなくブラックミュージックに軍配が上がったというか。J・ディラとか揺らしまくるじゃないですか。サンプリング以降の耳を持っている人たちは、みんなそうやってグルーヴを生み出しているのに、今のロックはちょっと進化が止まっている感が否めない。
そこはちょっと「ダセエな」と思ってしまう。……って、ちょっと大風呂敷を広げ過ぎましたが(笑)、でもミノタウルスの音楽はそういうリズム面での工夫をしていきたい。サンプリング以降の音楽を聴いた上で、ロックへ挑んでいくという。それが今後のテーマです。