山崎洋一郎が語る、ROCK IN JAPAN FESTIVALから考えるフェスのメディア機能

「アーティストありきではなく、アーティストの作品を受け取ったリスナーの心の中に何が起きたのか、そこにすべてがある」

─フジロックが1997年、Rising Sun Rock Festivalが1999年、RIJFの同年にSUMMER SONICが初開催という、まさにフェスの黎明期だったわけですが、その時すでにそこまで思いが至ったのはどうしてなのでしょうか。

山崎:それはロッキング・オンの本質に関わることです。ご存知のように、弊社は元々『rockin’on』という洋楽雑誌からスタートしていますが、通常の音楽雑誌が編集者やプロのライターによるインタビュー記事とレビューによって構成されていたのに対し、『rockin’on』は読者の投稿が誌面の大半を占めていたのです。

元々の思想が、アーティストありきではなく、アーティストの作品を受け取ったリスナーの心の中に何が起きたのか、そこにすべてがあるという姿勢だった。同じようにフェスでも、そこで演奏しているアーティストよりも、そこに集まっているお客さんが「体験していること」こそが素晴らしい、ユーザーの中に正義があるという考え方なんですよね。



ROCK IN JAPAN 2018の様子


─それともうひとつ、ロッキング・オンが掲げている「フェスはメディアである」というポリシーにもついてもお聞かせください。

山崎:確かにフェスは、楽しい休日を過ごすためのレジャーにもなり得るし、興行でありエンターテイメントです。が、僕らとしては「フェスはメディアである」という姿勢も重視している。つまり、そのフェスに行くと「現在の音楽シーンとは何か?」がものすごくわかりやすく感じ取れるということ。

あるいは「自分はこんな音楽が好きだったのか」と気づかされたり、今まで全く興味のなかった音楽に対して「こんな魅力があったのか!」という発見があったり、まるで雑誌のページをめくるような体験ができる場であるということです。そういう意味では、タイムテーブルの組み方、アーティストのセレクト、優先順位なども、単に興行成績順に並べていくのは違うだろう、という気持ちが昔からあって。ある意味、「メディアとしてのセレクト」であることは自覚していますね。

ただ、雑誌も同じなんですよ。メディアでありジャーナリズムではあるけど、少しでも売れてほしいから表紙や巻頭特集は有名なアーティストを起用するし、読者があまり興味のなさそうな、でも質の高い音楽を紹介するレビューやコラムをいかに楽しく読んでもらえるか? という工夫をするし。最終的には様々な音楽を知ってほしいのですが、まずは「楽しく読めるかどうか?」を考える。そこはフェスも雑誌も同じ考え方なんです。

アイドルグループ、ボカロP……さまざまなアーティストをラインナップしていく挑戦

─では、同じ「メディア」である雑誌とフェスの、相違点はどこにありますか?

山崎:雑誌はいくらでも刷ってお客さんに渡せるけど、フェスは場所と日にちが限られている。つまりソールドアウトしてしまったら、「行きたい」という方がいくらいらっしゃっても、それ以上売ることができないし、お見せできない。そのことが、やっていて一番感じる違いですし、衝撃を受けた部分です。それで悔しい思いを何度もした。だからついついステージも、開催日も増えていったわけです(笑)。

─なるほど(笑)。実際に、この19年間でRIJFが日本の音楽シーンに果たした役割は、非常に大きなものでした。アイドルグループや、ボカロPなどをいち早く出演させるなど、その当時としては、かなり大胆なチャレンジもありましたね。

山崎:今は音楽シーンが完全にジャンルレスかつ、ボーダレスになっていますからね。たとえばロックバンドにラッパーがフィーチャリングされるなんて普通のことだし、ロックアーティストがアイドルに楽曲提供をしたり、ツアーやレコーディングのサポートで参加したりするのも当たり前です。

でも、十数年前は、僕らがそういう捉え方でシーンに反映させようと思って、フェスにロック以外のジャンルの人たちをブッキングすると、かなり反発を食らいました。アイドルだけでなく、いわゆるポップス系のアーティストの場合でもそうでしたね。

とはいえ実際に演奏が始まると、みんな楽しんでくれていましたよ。事前はザワザワしましたが、演奏を聴けば多くの人がいいと思ってくれたんじゃないかなと思っています。特に、最初にPerfumeをブッキングした時は、「え、Perfume出すんだ」という感じでザワついていましたが、あっという間にうちのフェスでも超人気アクトになりましたよね。

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE