アフロビートが21世紀にもたらした「変革」とは? シェウン・クティを軸に歴史を辿る

アンティバラスが中心となったリバイバル、NYインディロックとの繋がり

その一方で、ほぼ同時期のNYでは、フェラ・クティの遺産を受け継ぐアフロビートバンドが多く誕生していた。ひとつは1998年に結成されたアンティバラス。前進バンドはリーダーのマルティン・ペルナが結成した「コンフント・アンティバラス」で、スペイン語で“楽団”を意味する“コンフント”がついていることからも明らかなように、当初はサルサの巨匠エディ・パルミエリの影響も色濃かった。そこからアフロビートを軸に、インディロック(ジョン・マッケンタイアとのコラボ作『Security』もある)やヒップホップなど様々な要素を取り込んで進化を続け、アフロビート・リバイバルを代表する存在となった。

アンティバラスとも親しいレイ・ルーゴが2001年に結成したのがココロ・アフロビート・オーケストラ。こちらはパンク/ハードコアなど、NYアンダーグラウンドにも精通したルーゴの素養が反映されていて、フェラのスタイルを軸にしながらアンティバラスよりもさらにミクスチャー具合の強いサウンドを奏でている。そして、このシーンで最もディープな存在だったのがアコヤ・アフロビート・アンサンブル。彼らはフェラのスタイルを真っ直ぐ受け継ぎ、1曲を何十分も延々と演奏する本格派。ジャズ・トランペッターの黒田卓也が在籍していたことでも知られている。

これらのバンドに共通しているのが、ソウル・プロヴァイダーズ、シャロン・ジョーンズ&ザ・ダップキングス、リー・フィールズなど、90年代後半からNYのレーベルDaptoneを中心に起こったファンク・リバイバル/ディープ・ファンク系バンドとの交流だ。彼らはこういった面々のレコーディングにも出入りしており、アフロビートとファンクの興隆が並行して起こっていたことがよくわかる。


Daptoneによるビデオ企画に出演したアンティバラス


アコヤ・アフロビート・アンサンブルのライブ映像には、トランペットを吹く黒田卓也の姿も。

さらにNYブルックリンでは、TV・オン・ザ・レディオをはじめ、ヴァンパイア・ウィークエンドダーティー・プロジェクターズなどのインディロック勢も、2000年代半ばくらいからアフロビートを取り入れた作品を発表している。非西欧のサウンドを求めた彼らの姿勢は、かつてのトーキング・ヘッズとも多く比較された。そこで生み出された音楽は、『Fear of Music』(1979年)や『Remain in Light』(1980年)、もしくはデヴィッド・バーンとブライアン・イーノによる『My Life in The Bush of Ghosts』(1981年)の発展型と言い換えることもできるだろう。



こういった2000年代のアフロビート・リバイバルは、2010年代に入るとさらに加速していく。その決め手となったのが、フェラの生涯を描いたミュージカル『FELA!』(2008年初演)。トニー賞11部門にノミネートされるなど絶賛された同作は、2011年にワールドツアーに出て、2012年にブロードウェイでリバイバル上映される大ヒット作に。そこではアンティバラスが音楽を手がけていた。ちなみに、同作の共同プロデューサーを務めたジェイ・Zは、ビヨンセの名曲「Déjà vu」でフェラの「Zombie」をサンプリングしているし、出資者の一人であるアリシア・キーズはNASがフェラの「Na Poi」をサンプリングした「Warrior Song」に客演していたりもする。それを踏まえると、『FELA!』の成功というのはミュージカルを通じて、ヒップホップ界がフェラに恩返しするような出来事だったのかもしれない。




こうしてミュージカルがブレイクしていた時期に、シェウンも所属するStrut、SoundwayやAnalog Africaといった優良レーベルがアフロビートを含めたアフリカ音楽を発掘し、リイシューを推し進めていたのも大きかった。この時期のアフロビートは、完全にトレンドだったと言い切ってもよさそうだ。

『Red Hot + Riot』の続編と言うべき2013年のコンピ『Red Hot + Fela』は、そんな2010年代前半のリバイバルを象徴する一枚。同作ではトニー・アレンやクエストラヴを筆頭に、チューン・ヤーズ、トゥンデ・アデビンペ(TVオン・ザ・レディオ)、ブリタニー・ハワード(アラバマ・シェイクス)、キング、アンティバラスの別働隊というべきスーパーヒューマン・ハピネスというふうに、ここまで述べてきたネオソウル/ヒップホップ、アンティバラス周辺、インディロックに至るまでの文脈を押さえた顔ぶれが一堂に集結。さらに後述するアンジェリーク・キジョーなどの現地アフリカ勢、ヨーロッパにてアフリカ音楽を継承するバロジなどの逸材に加えて、ブレイク前夜のチャイルディッシュ・ガンビーノとチャンス・ザ・ラッパーも独自の解釈を見せている。過去と未来を繋げるようなラインナップは今こそ注目したいところだ。


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