アフロビートが21世紀にもたらした「変革」とは? シェウン・クティを軸に歴史を辿る

今日のアフロビートにおけるシェウン・クティの立ち位置

ようやく本題に移ろう。本稿の主役であるシェウン・クティは、上述してきたようなアフロビートにまつわる文脈を的確に回収してきた。デビュー作の『Many Things』(2008年)では、キング・サニー・アデやマヌ・ディバンゴ、パパ・ウェンバなどを手掛けたマルタン・メソニエにプロデュースを託し、手堅くワールドミュージック的にまとめていたが、2作目の『From Africa With Fury: Rise』(2012年)ではブライアン・イーノにプロデュースを依頼。アフロビートの基本的な外観は変えることなく、楽器の編成やサウンドの構造に手を加えながら、ザラッとした手触りとエレクトロニックなサウンドにも馴染むシンセ使いでもって、2000年代のNYインディロック〜アフロビート・リバイバルへの回答を示すような異色作を作り上げた。




かと思えば、『A Long Way To the Beginning』(2014年)ではロバート・グラスパーを起用。M1やブリッツ・ジ・アンバサダーといったアフリカン・ラッパーを迎え、現代ジャズのハーモニーやヒップホップ的なビートを挿入し、よりファンク要素を増強しながら、低音を分厚く、より低く、くっきりと鳴らす「ネオソウル系譜のアフロビート」の最新形を提示してみせた。細部まで作り込まれた音像は、グラスパーの出世作である『Black Radio』シリーズを手掛けたQmillionのミックスも大きいのだろう。こうしたシェウンとグラスパーのコラボレーションは、2000年代におけるネオソウルとフェミ・クティ、それから1980年のロイ・エアーズとフェラ・クティによるコラボとの延長線上にあると見ることもできる(詳しくはこちら)。




そして、最新アルバムの『Black Times』(2018年)は初のセルフプロデュース作に。ミックスを引き続きQmillionに託すなど過去作の成果を活かしつつ、ハイブリッドなアフロビートを提示した。ドラムに過激なミックスを施すなどイーノやグラスパーから得たものを血肉化しながら、カルロス・サンタナによるギターソロを大胆にフィーチャーするなど、さらなるチャレンジを行っている。

一方でシェウンは、カリビアン・ミュージックの要素を散りばめたり、フェラの音楽的ルーツに回帰するような動きを見せているのも面白い。『A Long Way to〜』に収録された「Ohun Aiye」はパームワインやハイライフを想起させる曲で、初期のフェラがやっていたカリプソ的なサウンドにも通じるものだ。『Black Times』では様々な形でクラーヴェが入ったアレンジが増えており、リズムへのアプローチにこだわりが見られる。「アフロビートにはラテン音楽によくあるクラーヴェっていう特殊なリズムが隠れているんです」と語っていたのは黒田卓也だが、現在のシェウンはアフロビートを分析し、絶妙に解体しながら、新たな表現を模索しているようにも映る。




シェウンのそういったアプローチと並走しているのが、他ならぬフェミ・クティだ。同じく2018年に発表された最新作『One People One World』では、かつてのネオソウル志向から離れ、アフロビートに含まれるハイライフやカリプソの成分を増幅させながら、よりフェラのルーツに迫るようなサウンドを生み出していた。

この異母兄弟と同じく、ルーツを遡りながら新しい解釈を見出そうとしているのが、近年のアンジェリーク・キジョーである。ベナン共和国が生んだアフリカンポップの女王は、昨年発表したトーキング・ヘッズ『Remein in Light』のカバーアルバムを制作するにあたって、ピノ・パラディーノやトニー・アレン、ヴァンパイア・ウィークエンドのエズラ・クーニグというアフロビートと縁のあるゲストを招聘。ロックとワールドミュージックが繋がった歴史的名盤の意味を捉え直し、独自の再解釈をアピールしていた。

その後、アンジェリーク・キジョーはサルサの女王、セリア・クルースに捧げた2019年の最新作『Celia』でも、サルサのなかにあるアフリカ性を抽出し、それを大胆にアレンジしている。同作は進境著しいUKジャズシーンより、若手カリビアンのシャバカ・ハッチングスやテオン・クロスが参加している点も興味深い。この二人はサンズ・オブ・ケメットを筆頭とした様々なプロジェクトで、自身のルーツでもあるカリブ音楽のリズムと、その源流となったアフリカのリズムの要素を混ぜ合わせながら、ヒップホップやダンスホールレゲエ、グライムなどで育った世代による新たなカリビアン・ジャズを生み出している。さらにUKでは、マイシャやココロコ、ヌビアン・ツイストなど、アフロビートを演奏する「シャバカ以降」の新世代バンドも次々と台頭している。





こうやって考えると、現在のシェウンやフェミが、アフロビートの源流であるカリブ音楽の要素をアフリカ側から探求しているのは、アンジェリーク・キジョーやUKジャズの動きとパラレルであることに気がつくはずだ。今のシェウン・クティを聴くことは、ヒップホップやネオソウル、現代ジャズを通過した音像やノウハウで作られた音楽のなかに、アフリカとカリブの歴史を聴くことでもある。2010年代の終盤にきて、フェラの息子たちがここまで大きな存在になると、いったい誰が予想できただろうか。

最後に、シェウン・クティによる近年のパフォーマンス動画を紹介しておこう。このエネルギッシュな映像が「生で観ること」の意味を実感させてくれるはずだ。





シェウン・クティ&エジプト80来日公演
日時:2019年7月21日(日)、22日(月)、23日(火)
7月21日(日)
 [1st] Open4:00pm Start5:00pm [2nd] Open7:00pm Start8:00pm
7月22日(月)、23日(火)
 [1st] Open5:30pm Start6:30pm [2nd] Open8:20pm Start9:00pm
会場:ブルーノート東京
ミュージックチャージ:¥8,500(税込)

◎DJの追加出演が決定!
濱田大介(7月21日)、石塚チカシ(7月22日)、Kenji Hasegawa(7月23日)

◎メンバー
シェウン・クティ(ヴォーカル、サックス、キーボード)
アディドイン・アディフォラリン(トランペット)
オラディメジ・アキネリ(トランペット)
アデボワレ・オスンニブ(バリトンサックス)
オジョ・サミュエル・デイヴィッド(テナーサックス)
デイヴィッド・オバニエド(リードギター)
アキン・バミデレ(ギター)
クンレ・ジャスティス(ベース)
シーナ・ニラン・アビオドゥン(ドラムス)
コーラ・オナサンヤ(ジャイアントコンガ)
ウェイル・トリオラ(パーカッション)
オーコン・イヤンバ(シェケレ)
ジョイ・オパラ(ヴォーカル、ダンサー)
イヤボ・アデニラン(ヴォーカル、ダンサー)

公演詳細・予約:
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/seun-kuti/

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