インディーポップを愛するタイのスター、プム・ヴィプリットの葛藤

インディーポップ直系のサウンドを奏でるタイのシンガー・ソングライター、プム・ヴィプリットが東南アジアで人気を集めている。(Photo by Sutthaya Chalassathien)

2018年の夏、マック・デマルコがタイの首都バンコックでライブを行ったとき、同国のシンガー・ソングライター、プム・ヴィプリットは自分の音楽ヒーローの一人と対面する機会を得た。

「あのコンサートのプロモーターが間接的に知り合いだったので、楽屋に入れてもらったんだ」と、ヴィプリットがローリングストーン誌に語った。「彼に礼儀正しいハグをして、固い握手を交わして、『ねえ、君のおかげで僕は自分らしくいられたし、自分の感じた通りに表現することを怖がらなくなったんだよ』と伝えたんだ」と。

23歳の自称「音楽オタク」のヴィプリットが、タイに来た敬愛するアーティストと接点を持ったのはデマルコが初めてではなかった。ブラッド・オレンジのケータリングで働いたこともあったし、ライのマイク・ミロシュにインタビューしたこともあった。また、イギリスのシンセポップ・デュオ、ホンネのツアーガイドを務めたこともある。タイ王宮を案内し、彼らをタイレストランとタイ式マッサージに連れて行った。それから4〜5年経った今年、JOOXタイランド・ミュージック・アワーズで、ヴィプリットはパフォーマーとしてホンネと同じ舞台に立ったのである。「本当にシュールだった。過去の出来事が今に繋がる伏線のようでね」と、ヴィプリットが言う。

彼のサウンドは2010年代のアメリカのインディーポップ・サウンドからの影響が色濃いが、ヴィプリットは自国でアイドル的な人気を博している。2018年の「Lover Boy(原題)」のミュージック・ビデオでは、麦わら帽子をかぶった細身のヴィプリットが、デマルコを連想させる軽快な空気感をまといながら、ビーチでギターを弾いて優しく歌う。このMVは現在までに4000万回以上再生されている。



ところが、手に入れたばかりのこの成功は、ヴィプリットにとってストレスとなったと最新シングル「Hello Anxiety(原題)」で歌っている。



「この曲は去年いろんな所へ旅した中で生まれてきた。突然、みんなの注目を集めるようになったけど、僕にはまだ心の準備ができていなかったんだ。もちろん、こうなったことはとてもうれしいけど」と、ヴィプリットは朗らかなこのインディーポップ曲を説明する。「音楽は自分にとって趣味だと思っていた。目の前の問題からの逃げ場として使えるものだと。それが逃げられないものになってしまったんだ。どんな期待も一切なかったのに、ある日突然押しつぶされそうになる。これは大きな変化だよ。(中略)かなり不安だったけど、去年は旅の間も、音楽の中でも、そういうことは一切隠していたんだ。でも、この曲でその気持ちを吐き出さなきゃと思ったのさ」と。

この曲の歌詞は過去の彼の作品とは一線を隠しており、これまでで最も内向的なものとなっている。「君が迷っているなんて誰にもわからない/でも君は大丈夫だ、大丈夫だよ」と、サビの部分でヴィプリットが歌う。それにもかかわらず、この曲はファンの心に響き、今年3月にYouTubeにMVが投稿されて以来、再生回数は500万回を超えている。

「あの曲をリリースしたとき、自分が誇らしく思える作品にするように細心の注意を払ったよ。最終的にああいう形でリリースできて最高にハッピーだね」と、ヴィプリット。

Translated by Miki Nakayama

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