サイエントロジーの脱会者「第2世代」に密着 カルト集団で生まれ育った苦悩を語る

要求の高いグループの多くには、感情の抑制に関して特殊な用語があるという

リッチ氏は現在中国に住んでいる。つまり、はるばる地球を半周してやってきたわけだ。部屋にいる他の参加者同様、彼もまた、自分を理解してくれる人々に囲まれてサイエントロジーでの経験を共有する場を求めているのだ。生まれて以来ずっと感情を抑えてきた後、感情を抱くのがどれだけ大変か、身をもって体験している。大人になってから初めて泣いた時のことを語り始めた。あれは深夜、映画『素晴らしき哉、人生!』を見ていた時のことだ。「もう泣くことはできないと思っていました」と本人。だがこれで、未来に希望が見えた。

スーザンが、リッチ氏の話に大きくうなずく。「あなた、LSDを売ってたでしょ?」と彼女が言う。「たぶん、私あなたからドラッグを買ったわ」。彼女は何年もMDMAを常用していた。薬をやっている時が、唯一他人とのつながりを感じられた瞬間だった。最終的にセラピーに通うようになると、最初の数日間は泣きどおしだった。その後数年間は、感情とは何なのか悩んでばかりだった。「クイズみたいだったわ」と彼女は言う。「この感情は何でしょう? 怒りでしょうか?」

ひと通り話が済んだ。サイエントロジーについて語れば語るほど、言葉遣いもサイエントロジー語録になっていく。略語や、仲間内での精神世界のフレーズが言葉の端々に現れる。どんなにサイエントロジーを忌み嫌っていても、教会の専門用語が彼らの母国語なのだ。単語を言い換えたり、とんちんかんなことを口走っていないか心配したりせずに会話できると安堵している者もいた。

宗教体系にとって言語が重要で、切っても切り離せないのには理由がある。精神科医で思考改造の専門家ロバート・ジェイ・リフトン氏によると、新たな語彙を与えることはカルト集団の常套手段で、多くの場合、要でもあるという。彼はこうした行為を「言語のアップロード」と呼び、要求の高い集団にみられる8つの特徴の一つに挙げた。タバコ休憩中に、シェルトン氏に意見を聞いてみた。

感覚の抑制という問題はいったん脇に置いておきましょう。こうした感情にはすでに名前があるのに、なぜその言葉を使わないのですか? 「だから僕らは特別で、他とは違うんですよ」と彼は冗談を言った。「もし僕らが普通の英単語を使っていたら、誰だって苦労しませんよ」。だが彼は、思考停止の常套手段としてのカルト用語、というリフトン氏の見解には賛同した。「人々はカルト指導者のシステムの中で思考するようになるんです」と彼は言う。「文字通り、常識に囚われずに考えることができなくなるんです」

マシューズ博士も同じ意見だ。要求の高いグループの多くには、感情の抑制に関して特殊な用語があるという。キリスト教原理主義のカルトには「keep sweet(本来は「ご機嫌を取る」の意)」という熟語を、「メソメソするな、ガタガタいうな」という意味で使うところもある。博士はさらに「こういう隠語は、思考回路を書き換えてしまうんです」と付け加えた。

シルヴァーマン氏も、言葉の持つ力についてよく考える――ゴードン氏から誘われて、WEBサイト制作のために人々の経験談を集めるようになってからはとくにそうだ。彼女の今の仕事は、長年封印されてきた話や感情を掘り起こす手伝いをすること。それがきっと当人たちはもちろん、他に苦しんでいる元信者たちにも役立つはずだと期待している。幸いなことに、言葉で表現することはシルヴァーマン氏の得意分野だ。生まれながらのサイエントロジー信者だった彼女にとって、書くことが唯一の逃げ場だった。それも字を読めるようになる前からだ。「何時間も机の前で意味も分からないのに、本の文字をひたすら写し書きしていたの」とシルヴァーマン氏。「秘密の宝の地図のようなものね。いつか解読して、謎を解いてやろう、みたいな」

シルヴァーマン氏にはそうした地図が必要だった。子供の頃、彼女は精神の病に悩まされていて、意識が解離する時も多々あった。意識が離れた後、数分後、あるいは数時間後に戻ってくる。その間起きたことに関しては、断片的に覚えている、あるいはまったく覚えていない。ただ、周りから悪い子だと思われていたことは分かっていて、その通りなのではないかと恐れた。サイエントロジーは役に立たなかった。落ち込んだ時、あるいは「悲嘆にくれた」時、彼女は教会の教えに従ってトレーニング・ルーティン(TR)を行った。教会によれば、これはコミュニケーション能力を向上する「訓練」だという。シルヴァーマン氏の説明によれば、そうした訓練の中には2人1組になって向かい合い、身動きも反応もせずに何時間も過ごすものや、一方が相手を反応させようと大声で叫び、もう一方は静かにじっと座る、というものもあるそうだ。

シルヴァーマン氏によれば、こうした訓練の目的は、物静かな聞き手や明晰な話し手を養成することではない。いくつかのTRは「外面化すること」、つまり魂を身体の外へ出し、外側から眺めることを目的としている。「これをなんていうか分かる?」と彼女は尋ねる。「これが解離というものよ。筋肉を鍛えて、自分の意思で意識を解離するの」。生い立ちがどうであれ、いずれにしても自分はメンタルヘルスの問題を抱えていただろうと言うシルヴァーマン氏は、良い医者がいれば助けてもらえたはずだと考えている。サイエントロジーは精神医学に反対の立場を取っているため――教会の代表者によれば、精神医学は「人権の冒涜」の口実で、「巧妙に練られた恐ろしいデマ」だそうだ――シルヴァーマン氏は一度もしっかりした医師に診てもらえなかった。彼女はDID、つまり解離性同一性障害と診断され、今も病と闘っている。解離から戻ってきた時、たいていは膝に手を置いて上体を起こすというTRの姿勢になっているそうだ。

シルヴァーマン氏が自分の人生を理解しようとすると、必ず大きな穴がぽっかり開いている。彼女は自分を『ホームランド』のクレア・デーンズに例え、手がかりや、点と点をつなぐ線でいっぱいの壁を引き合いに出した。「人生をかけてずっと私は(自分の身に何が起きたのか)情報を集めてきた」と本人は言う。「でも、点のつなぎ方が分からないのよ」。 正直なところ、一生わからないんじゃないか、とも語った。

Translated by Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE