『海獣の子供』作画の舞台裏を総作画監督・小西賢一が語る

―今回の劇場版アニメでは、琉花のキャラクターデザインが原作よりも幼く見えるように工夫されたそうですね。

小西:実は今日、キャラデザの設定画を持ってきたんですが(と言って設定画の最終版を見せてくれる)、最終版ではよりおでこを出して、小柄にして、手足も細めに設定しています。これは原作とも少し変えたいんだろうなという監督の意向を絵コンテから受け取りまして、琉花に関しては監督の琉花像を大切にしようと思いました。自分としても少し他の子より未熟な印象というのはしっくりきたので。年齢的には思春期にあたる三人ですが、空は大人、海は子供、に対して中間に位置するのが琉花というか、そこら辺の構図としては原作よりわかりやすくなってますよね。琉花は二人との出会い(物理的には隕石を飲み込むことによって)によって変化しているはずですが、事後の見た目は変えてません。ED後は1年後なので変わってますけどね。


Photo by Shuya Nakano

―なるほど。海や空のキャラクターデザインについては、どんな工夫をされましたか?

小西:五十嵐キャラの顔は非常にリアルなところがありますから、それをそのまま作画に反映すると、怖くなったり崩れやすいんです。キャラ表の時点で、五十嵐さんも気になったのか、「もうちょっとアニメに寄せてもらった方がいいんじゃないか」と提案いただいて。それについては非常に納得したので意識したんですが、同時に、アニメ表現に寄せすぎると、原作の最大の魅力と言っても過言ではない「五十嵐さんの絵の雰囲気」が失われてしまいます。そこで、監督が描かれた絵コンテのバランスもふまえて、原作の絵の魅力を可能な限り伝える方法を考えていきました。

―『海獣の子供』には、画面として魅力的なシーンが多くあると思うので、印象的なシーンについても、いくつか制作時のことを思い出してもらえると嬉しいです。まず、冒頭の琉花が両親と水族館で水槽を眺めて、ジンベイザメが海中を昇っていくシーンはどうでしょう?

小西:あのアヴァンタイトル(オープニングに入る前のプロローグ部分)は元々、原画担当になっていたのですが、結局レイアウトまでが自分で、キャラに関しては林佳織さんと板垣彰子さん、そして琉花の手に集まってくる魚たちは白井孝奈さんがすごく頑張ってくれました。アヴァンは作品の方針を提示するためにも大事なものですし、手で描くぞという意気込みを最初に伝えるためにも、大変でもやるしかない、という判断でした。

―そしてもうひとつ印象的だったのは、作品の後半に登場する“祭りの本番”です。

小西:前半の海くんが隕石を飲み込むまでは作画の素材と撮影処理が入り乱れて、処理に関しては自分も具体的な事まで把握している訳ではないのです。監督のイメージに沿うよう何度もやり取りをしましたね。作画だけでも大変なのですが、色彩、画面設計なしには成立しないのです。後半の海中は3Dで魚群の躍動感を細かい部分まで表現してくださいました。宇宙人になった海くんは、内宇宙の素材と分解していく銀河の動きは作画なんです。

―また、“祭りの本番”の中でも特に印象的だったのが、作品のクライマックスに当たる琉花と海がもみ合うように昇っていくシーンでした。

小西:あの部分はもう、作画が大変過ぎて……(苦笑)。実は、当初予定していたものから欠番が出てしまっているんです。もともとあのシーンには、もっとカットが追加される予定でした。ああいうヘビーなカットは、原画さんの技術が物を言いますので、非常に上手くやってくれたと思います。結果的に様々な人の作業になっていて、本当にみんなの共同作業で、最後の総力戦のような感覚だったと思います。あのシーンもそうですが、『海獣の子供』は、一度観て「ああ、終わった。スッキリした」と言えるタイプの作品ではないですよね。難しくて当たり前の作品なので、何度も観ていただくと、どんどん魅力が伝わると思うし、考えも深まると思います。たとえば、僕自身、最後のシーンで海面に空が映っていることの意味や、空くんと出会った岩場だということもわかっていませんでした(笑)。何度も観返してもらえると嬉しいですし、1回目で終わりにさせないためには絵や音の力が貢献できると思うので、それが相まってループしたくなるものになっていてくれたらなと。

※小西氏がアニメーターになったきっかけなど、インタビューの続きはこちらでチェック。






©2019 五十嵐大介・小学館/「海獣の子供」製作委員会

『海獣の子供』
全国劇場公開中
監督:渡辺歩
原作:五十嵐大介
プロデューサー:田中栄子
キャラクターデザイン:小西賢一
総作画監督:小西賢一
https://www.kaijunokodomo.com/

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