テイラー・スウィフトを憤慨させた、米エンタメ界の敏腕スクーター・ブラウンの野望

2) 今後のアーティストへの投資を可能にする収益をビッグ・マシンが提供できる

ビッグ・マシンは収益が確実な企業だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報道している上記の財務を鑑みると、ビッグ・マシンがはじき出すEBITDA利益マージンは40%にも及ぶ。これはイサカと同型の音楽企業が生み出す利益の2倍以上だ(ちなみに昨年度のユニバーサル・ミュージック・グループのEBITA [訳注:金利支払い前、税金支払い前、有形の固定資産の償却費控除前の利益] マージンは取引高が70億ドルと巨大でも15%である)。

この確実なビジネスの核となるのは、もちろんテイラー・スウィフトのカタログで、ビッグ・マシンの年間取引高の1/3以上を占めると推定される。ブラウンは、スウィフトのファースト以降の6枚のアルバムが今でも人気を博していることに注目して、この収益でビッグ・マシンに投資した3億ドルを回収する予定だ。音楽データサイトKwobによると、YouTubeでのスウィフトの動画の再生回数は今日までで総数170億万回を超えるため、ブラウンがそう考えるのも当然といえるだろう。

ビッグ・マシンに所属するカントリー系アーティストの重要性も軽視すべきではないのだが、ニールセンのデータによると、カントリー・ミュージックは2019年前半のアメリカ国内のオンデマンド配信総数の5.8%だけとなっている。一方、フィジカル・アルバムの売上は全体の10%を占めている。フィジカルからストリーミングへ移行するリスナーが増えていけば、ブラウンは今後数年間で現在のギャップを埋めることができ、イサカの金庫が潤うと考えているのだろう。

3)ブラウンが主要レコード会社と交渉するときに、ビッグ・マシンは半ば公然の秘密兵器として使える

近年は世界的スターの新作のリリース日を調べていると目につくのが、アーティストが自分の会社から音源を発売し、ライセンス契約やディストリビューション契約で主要レコード会社から販売するという手法だ。例をあげると、リアーナ(Westbury Road→Roc Nation)、カニエ・ウェスト(Getting Out Our Dreams II→Def Jam),テイラー・スウィフトの新曲(テイラー・スウィフト→Republic Records)という具合だ。ブラウンがSBプロジェクツ最大のスターであるジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデの音源を同じ方法で発売および販売することに決めた場合、ビッグ・マシンが大きな役割を担うことは必至だ。

ブラウンにとっても、SBプロジェクツのクライアントとビッグ・マシンを直接契約させることはパワフルな一歩となる。また、さらなる利益がイサカ・ファミリーの枠の中に留まることも確保できる。レコードのリリース過程でイサカ・ファミリー外にこぼれてしまう唯一の金銭が、ディストリビューターに支払う手数料だ(ビッグ・マシンの現在のディストリビューターはユニバーサル・ミュージック・グループで、ブラウンとイサカが買収する前にビッグ・マシンの買収に色気を示していたのが彼らだと言われている)。また、万が一、例えばジャスティン・ビーバーがビッグ・マシンと直接契約をした場合、現在彼が契約しているレーベル、つまりユニバーサル・ミュージック・グループのアイランド・デフ・ジャムがパニックを起こすのは避けられない。彼らは金のなる木を逃さないために契約金額を上げることも辞さないだろうから、それはそれでブラウンとイサカにとっては朗報となる。

どんなレコード・レーベルにとっても重要なことは、新人アーティストをブレークさせる能力だ。ユニバーサルと契約しているレーベル、スクールボーイ・レコーズを運営しているブラウンは、彼自身がプロモーションの強力な発信源と言える。ブラウンの現在のInstagramフォロワーが310万人で、彼はトリ・ケリーやベイビー・ジェイクのようなSBプロジェクツ所属のアーティストの音楽やメディアをプッシュするプラットフォームとしてInstagramを活用しているのだ。

Translated by Miki Nakayama

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