フジロックフェスティバル、「フェス飯」文化の誕生を担った男たち

「僕はフジロックでいかに美味しいものを提供できるか、ということしか考えてないですね。あと、バラエティに富んだメニューをどれだけ出せるか」(鯉沼)という言葉が示すように、フジロックのフードはとにかく多様性豊か。本格路線のお店も多い。(©宇宙大使☆スター)

7月26日から開催されるフジロックフェスティバル。フェスの楽しみの一つ「フェス飯」カルチャー誕生の裏側に隠されたストーリーとは?

もはや言うに及ばず日本における音楽フェスのオリジネイターであり、その最高峰として国内のみならず世界中のミュージックラバーから愛されているフジロックフェスティバル。この国のフェスカルチャーが発展し、成熟の域に達している今もなおフジロックは孤高のロールモデルとして存在している。

そして、99年に開催された第1回から──もちろん“フェス飯”というワードが生まれるはるか以前から──フジロックは食文化にもこだわりを持ち続けてきた。その変遷を、初年度からフジロックのスタッフとして名を連ねステージ制作をまとめているSMASHの小川大八と飲食出店の管理を任されているホットスタッフプロモーションの鯉沼源多郎、アーティストブッキングの中軸を担っている高崎亮に語ってもらった。

「フェスの飲食店は夏祭りの屋台じゃない」

ーフジロックに来日する海外アーティストにとって、ロケーションはもちろん、食事が美味しいというのもフジロックを愛すべき理由になっていると思うんですけど。

小川 ああ、だって世界の重要な音楽フェスティバルでフジが3位に選ばれたんでしょ?(笑)。

ーUKのリサーチ企業が主体になっている「Festival250」のランキングで1位がコーチェラ、2位がグラストンベリー、3位がフジロックという

高崎 バックステージはアーティストの数よりも音響から照明、マネージャーも含めてクルーの数が多いんですよね。そうすると、ライブが終わったら“オアシスエリア”で酒を飲みながら「ここの屋台が美味いんだ!」「ラーメン、最高!」とか言ってるクルーがいて(笑)。それにつられるように、アーティストも屋台のご飯を食べて「ほんとだ! 美味い!」ってなるんですよ。

ーやっぱりフジロックの屋台は他国のフェスに比べてもクオリティがかなり高いわけですよね。

高崎 だって、グラストンベリーに行ってみたら炎天下の中で寿司を売ってるんですよ!(笑)。

ーカピカピになった寿司が(笑)。

高崎 そう、ネタもシャリもカチンコチンになっていて(笑)。正直、食べられたもんじゃないものもいっぱいありますね。コーチェラはまだ洗練されてますけどね。

鯉沼 え!? でも、食べ物は美味しくないよ!(笑)。美味しいのはピザくらいでしょう。

小川 最近は全体的にけっこうクオリティが上がってるんですよ。

高崎 ただ日本のクオリティと安さは飛び抜けてると思いますね。初年度のフジロックの飲食出店ってどんな感じだったんですか?

鯉沼 ちゃんと覚えてないけど、でも初年度に日高さん(正博/SMASH代表)が「フェスティバルの飲食出店は焼きそば屋とか、たこ焼き屋とか、夏祭りの屋台みたいな感じじゃないんだ」ということを言っていて。

ー飲食に関してもロールモデルが日本にはなかったわけで。そこから話がスタートする。

鯉沼 そう。それで初年度から日高さんの知り合いのレストランを呼んで“ワールドレストラン”というエリアを作ったんです。それプラス、ケータリングカーの導入ですよね。でも、一番大きいのは最初から東京にあるレストランに出店してもらったということです。そこが他のフェスとの大きな違いになった。

小川 最初からそれをやったことがすごいなと。

鯉沼 初年度の富士天神山、2年目の豊洲を経て、3年目で苗場に移ってからワールドレストランブースとケータリングカーというスタイルがどんどん定着していって。で、今度は世の中的にケータリングカーで売るケバブとかタイラーメンとかが流行りだすわけですよ。そうすると、フジロックでも「あれ? 同じエリアにケバブを出してるお店が2つある、タイラーメンを出してるお店が数店舗ある。これはよくない!」と思ったんですよね。

ーそれはいつごろの話ですか?

鯉沼 苗場に移って3、4年目くらいだったと記憶してます。そこから僕が勝手にいろいろやり始めたんですよ(笑)。お店の選定も人任せだったところを僕が全部引き受けて。そういう意味ではそこからフジロックの飲食出店に関しては僕の独断でやっちゃてるところがありますね(笑)。

ーお店のチョイスも完全にですか?

鯉沼 そうです(笑)。

小川 いろんな店を食べ歩きしてね(笑)。

鯉沼 そうそう(笑)。ワールドレストランは2016年を最後に無くなってしまったんですけど、僕が飲食を仕切るようになってからは飲食出店の一般公募を始めて、実際にお店に食べに行ってクオリティを確認するようになったんです。


©宇宙大使☆スター


©宇宙大使☆スター

ー僕も知人がフジロックで飲食出店をした経験があるんですけど、ストレートに言うと、よっぽど売れないかぎりは赤字になると。

鯉沼 そうなんですよ。だから初めて出店される方にはとにかく「儲けようと思わないでください」と口酸っぱく言ってますね。


©宇宙大使☆スター

ーそれでもフジロックに継続して出店したいと希望する店も多いわけですよね。

鯉沼 でも、入れ替わりもかなりありますしね。1年出店してみて「二度と出るか!」って言うお店もあるし(笑)。大変すぎて割に合わないって。でも、そういう状況の中でも「やっぱりフジロックは面白いな」って思ってくれるお店が残りますよね。

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