Spotifyが撤回した5つのコンテンツ戦略

2011年11月、独自のアプリポータルをローンチ

1) Spotify apps(2011年)
2011年11月、Spotifyが独自のアプリポータルをローンチし、複数のパートナー企業がプラットホーム内に自社ブランドのエリアを持っていたことを覚えている読者もいるだろう。これらのアプリはRolling StoneやPitchfork、Billboardといったパートナーが推す楽曲を、レビューやチャート、各種プレイリストと共に紹介するというものだった。デスクトップに特化したランチャーとSpotifyの「App Finder」によって、ユーザーはこれらのアプリを検索できる仕組みとなっていた。

Spotify appsを開発するメリットについて、同社は興味を示したパートナーたちにこう説明していた。「Spotifyアプリはユーザーとのより緊密なやり取りを可能にし、ブランドの知名度を向上させ、Spotifyのユーザーたちが外部リンクに飛ぶよう促します」

このニュースはIT界隈で大きな話題を呼び、Cnetは「Spotify appsはiTunesを脅かす存在になりうる」と報じた。2012年にはUniversal Music Group、Sony Music、Warner Music、[PIAS]等の音楽系企業のみならず、マクドナルドやIntel、AT&Tといった大企業も自社アプリを開発した。

しかし2014年3月、Spotifyは新規アプリの登録受付を停止した。同社はその直後に楽曲推薦エンジンEcho Nestを5000万ユーロ(6600万ドル)で買収し、楽曲のキュレーションを自社のプラットホーム内で完結させようとする姿勢をうかがわせた。

その見方は的中した。SpotifyのApp Finderはほどなくして姿を消し、以降一度も市場に現れていない。

2) ショートフォームのビデオコンテンツ(2015年ー2016年)
イギリスのシットコム『Alan Partridge』のある有名なエピソードには、まぬけで用済みと罵られつつもキャリアにしがみつくテレビ番組の司会者Partridgeが、BBCのフィクサーとされる架空の人物から自身のトークショーが打ち切られようとしていると知らされるくだりがある。パニックに陥った彼は、機嫌を損ねているBBCの重役たちの前で、くだらないダジャレにもとづいた新番組のアイデアを片っ端から挙げていく。

その中には『Chas & Daveの腕相撲バトル』、『インナーシティ相撲』(「都市部からかき集めた太った人たちがおむつをはき、地面にチョークで描いた輪の外に相手を放り出そうと奮闘する」)のほか、苦し紛れに発した『猿のテニス』というものまであった。

2016年5月に発表したプレスリリースでSpotifyがオリジナルの映像コンテンツを導入すると公表した時、筆者はあのシーンを思い浮かべた。その発表には以下のような内容が含まれていた(同社のプレスリリースをそのまま転載):

『Rush Hour』ー 2組のヒップホップアーティスト(片方は大御所、もう片方は若手)が、ロサンゼルスのラッシュアワーの真っ只中にヴァンで拾われる。伏せたままの目的地に着くまでの間に、彼らは自身の代表曲のリミックスあるいはマッシュアップを考えつかねばならない。到着したロサンゼルスのダウンタウンにある駐車場には、ラッセル・シモンズが新たに立ち上げたAll-Def Digitalのステージが設置されており、2人はそこで初公開となるコラボ曲(と他の曲)を大興奮のファンたちの前で披露する。

『Trading Playlists』ー 2人のセレブレティがSpotifyプレイリストを1日限定で交換する。新たな音楽の発見を通じて2人が互いのことを知っていく様子を描くことで、アイデンティティやカルチャーと音楽の結びつきを浮かび上がらせる。

『Public Spaces』ー 毎回有名アーティストが登場し、世界的に有名なスポットを舞台にパフォーマンスを披露する。ユニオンスクエアでのマックルモア、ブランデンブルク門でのエイサップ・ロッキー等、本シリーズは「メインストリームのための音楽」にフォーカスする。

これらはすべて失敗に終わったか、あるいは制作さえされなかった。『Rush Hour』は『Traffic Jams』として公開されたが、即座に方々から『hip-hop Carpool Karaoke』のパクリだと揶揄された。Spotifyのアプリで検索してみると、現在では何もヒットしなくなっている(『Traffic Jams』とラッセル・シモンズのAll-Def Digitalが手を組んでいたことは、今となっては皮肉だ)。

Translated by Masaaki Yoshida

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