コートニー・バーネットが語る、「絶望」と向き合ったアルバム制作秘話

絶望を理解するという考えは、同作品に収録されている「City Looks Pretty」でもはっきりと分かる。この弾むような曲では「時々悲しくなる/そんなに悪くない」と歌う。そして、軽快でメランコリーな「Need a Little Time」(コーラス部分では「自分と君から逃げる時間が少し必要だ」というヘヴィーな歌詞が登場する)もそうだ。ちなみにこの曲はアルバム収録曲の中で唯一彼女が一気に書き上げた曲で、恋人のシンガーソングライター、ジェン・クロアーと森の中の山小屋で過ごしていたときに完成した。また、一見アップビートな「Crippling Self-Doubt and a General Lack of Confidence」にはブリーダーズのキムとケリー・ディールがフィーチャーされ、コーラスの「私は何も知らない」の直前でアルバムタイトルと同じ歌詞「あなたの本音を教えて」を歌っている(バーネットがキム・ディールと知り会ったのはデジタルメディアアウトレットTalkhouseのポッドキャストの席で、その後はメールで連絡を取り合っていた。ブリーダの新作でバーネットが歌ったこともあり、彼女も自分のアルバムに参加してもらったわけだ。「二人の声って本当にいいのよ」とバーネット)。

次に続くのが、パンク風の「I’m Not Your Mother, I’m Not Your Bitch」。タイトルがこの曲を物語っている。「タイトルでわかるように、この曲はめちゃくちゃ怒っていて、苛立っている曲。率直な歌詞だから簡単に理解できるはず。これは自分の世界に土足で踏み込む連中の話で、いろんな人に対して、色んな経験に対して、怒りをぶつけているわけ。こっちを操って利用しようとする人たちの話をいくつもゴチャ混ぜにした奇っ怪な曲といえるかも。この曲は男に向けた曲だと解釈する人が多いみたいだけど、性別は特定していない」とバーネットが説明する。



男性がテーマの曲はすでに紹介した「Nameless, Faceless」だ。バーネットはメルボルンの暴力についてリサーチしている最中に、アトウッドの作品の言葉(「女に笑われることを男は恐れている、男に殺されることを女は恐れている」)を知った。「暴力について書かれたものを読むたびに、『どうしてこんなことが出来るの?』や『どうしてこんなことをしたの?』ってみんな思うでしょ。それを理解しようとしてみた。あの言葉はある記事に書いてあて、とてもパワフルだって思ったのよ。短い文章で大きな事柄をシンプルに効果的に言い表している。そのあとで、それがアトウッドの言葉だと気づいたわけ」と彼女は言う。

純粋な希望の瞬間が訪れるのは、最後の曲「Sunday Roast」だ。この曲では「あなたが最善を尽くしているのは知っている/あなたはよくやっているって思う」と歌う。彼女は、「友だち同士で一緒に夕食を囲むという基本的で単純なことと、友情にある思いやり、温かさ、愛情について歌っている。でも、それ以外のことにも触れていて、友だちの苦しむ姿とか、彼らを助けても役に立たない感覚とか。大きな世界観では、この曲は1曲目(「Hopefulness」)に通じるし、小さい世界観で見ると世界中の最悪な問題に集約する。楽観的に終わらせたくてこの曲を最後に持ってきたのよ」と語る。

このアルバムがついに完成した昨年、バーネットはツアーに向けて準備を進めていて、ファンたちと希望を共有することを彼女は楽しみにしていた。まあ、曲によっては希望を持つ努力を分かち合うとも言えるだろう。彼女の公式サイトでは、アルバム・タイトルにちなんだ「本音を教えて」という質問に、ファンが率直に答えるコーナーも設置。もちろんバーネットも人々の意見をチェックしていて、冒頭の「ABCスープ」のようなインスピレーションの素を探しているという。同じくらい効果的な文章に出会ったかとたずねると、「まだよ。でもきっと出会うと思う」と彼女は答えてくれた。

フジロックフェスティバル ’19の16時30半からWHITE STAGE に登場するバーネット、ステージが楽しみだ。
YouTubeのLIVE Channel 1でも、同時刻からストリーミング配信される。)


Translated by Miki Nakayama

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE