シーアの知られざる波乱万丈人生、どん底から這い上がったポップスターの歩み

Illustration by Nigel Buchanan for Rolling Stone


その予想を大きく覆すことになった最大の要因、それは「シャンデリア」のミュージックビデオだった。シーア自身もディレクションに携わったそのビデオは、振付師のRyan Heffington、そしてリアリティ番組に目がないシーアが『Dance Moms』でその存在を知ったマディー・ジーグラーとのコラボレーション第一弾となった。そのビデオではブロンドのボブのウィッグを身につけた当時11歳のジーグラーが、壊れた人形のような狂った笑顔を浮かべたまま、廃墟と化した建物の中で激しく踊る。ウィッグに象徴されるその不可解さは、視聴者が独自に解釈することを求めているようだった。同ビデオは大きな反響を呼び、YouTubeの再生回数において史上29番目に数えられている。「あれは私の最高傑作だと思う」シーアはそう話す。「『シャンデリア』のビデオがなければ、彼女の躍進はあり得なかった」ダニエルはそう付け加える。「私たちの関係も終わっていただろうね。自身の作品は出さず、彼女は作曲家として裏方に徹することになっていただろう」

シーアのアバター的存在となったジーグラーは、その後もお馴染みのウィッグ姿で彼女のミュージックビデオやステージに繰り返し登場し、2人はその過程で親しくなっていった。「彼女は私にとって、もうひとりのお母さんみたいな存在」ジーグラーはそう話す。「でも時々、同い年くらいの女の子と接しているように感じるの。実際にはずっと年上なのに、彼女には15歳の女の子みたいなところがあるから」


ニューヨークのバークレイズ・センターで演奏するシーアとダンサーのマディー・ジーグラー 2016年10月25日

2015年の時点でシーアは押しも押されぬトップスターとなり、1年でサタデー・ナイト・ライブに3回出演するという前代未聞の偉業を成し遂げた(エピソードのひとつではドナルド・グローヴァーが司会を務めた)。番組収録後、彼女は楽屋に戻る途中でふと声をかけられた。ブロンドヘアでずんぐり顔のその男性は、後にアメリカ合衆国大統領となる人物だった。

「一緒に写真を撮ろう!」そう口にしたトランプの後ろには、カメラを手にしたイヴァンカが立っていた。彼女は凍りついた。共依存を自認しているシーアは、他者を傷つけることをひどく恐れている。その一方で、トランプと仲良く並んで撮った写真がインターネット上で出回った場合のダメージについても考えた。意を決した彼女は、毅然とした態度でこう答えた。「申し訳ないんですけど、遠慮させてください。私のファンにはクィアやメキシコの人も多いし、私自身もあなたの考えに同意できないので」

わずかな沈黙の後、彼はこう答えた。「わかった。気にしないでくれ」気分を害したり傷ついた様子もなく、彼は平然としていたという。

「私が自分のイメージを守ろうとしているのを理解してくれたように思えた」シーアはそう話す。

「分かってくれてありがとうって伝えたいくらいだったわ」彼女はそう話す。「その直後、控え室でひどい下痢に襲われたんだけどね」

ロサンゼルスのSylmarエリアの小さな丘の麓にひっそりと佇むプロダクションスタジオ、Delfino Studio周辺では穏やかな雨が降り続いていた。彼女は当日、挿入シーンとして使われるシーリングファンの画を11回に渡って撮り直すなど、『Music』の撮影を続けていた。撮影クルーのメンバーたちは、天井がもっと古びて見えるようにペイントブラシで手を加え、現在はペンキが乾くのを待っているところだ。非効率的なことを何よりも嫌うシーアにとって、それはストレスのたまる時間だった。「私の人生における最大の命題は時間を節約することなの」彼女はそう話す。「だからこういう状況にはイライラするわ。もっと辛抱強くなるための試練を与えられてるような気がする」

本作はもともとミュージカル映画になる予定ではなかった。「ミュージカル映画にすれば桁違いの予算が出るって気づいたの」彼女曰く1000万ドルの予算が上乗せされたのは、映画のサウンドトラックで元がとれるからだという。Danielは同作をヒットさせるべく、ありとあらゆる手を尽くしている。今日彼らが撮影しているのは肝となるシーンであり、彼女が数週間前に「1時間程度で」書き上げた曲(エンディングで使われる可能性が濃厚)のミュージックビデオという位置付けになる予定だ。快活なその曲「Together」は、「シャンデリア」等よりもずっと彼女のパーソナリティにマッチしている。ブリッジの部分で彼女はこう歌う。「私は愛を求め、そして与えたがってる / 誰か愛を届けて お願いだから」

1カメで一発撮りの「Together」のシーンでは、ヴィヴィッドな原色のジャンプスーツに身を包んだ主要キャラクターたちと6人の子供たちが、12ステップ・ミーティングさながらに輪になって踊る(振り付けを担当したのはもちろんHeffingtonだ)。長く複雑なショットだが、カラフルでハグと笑顔に満ちたこのシーンがエンディングに使われるのだとすれば、映画は極めてハッピーな内容になるはずだ。天井のショットを含むテイクを一心に見つめていたシーアは「素晴らしい」と呟いた後、大きな声で叫んだ。「素晴らしいわ!」

数ヶ月後、映画はほぼ完成していた。「いいものになると思うわ」彼女は電話越しにそう語った。「規格外とまでは言わないけどね…そう断言できないことに悔しさを覚えてるわ。初監督作品を規格外のものにする、それは私の夢だったから。でも仕方ないわね、私は超人じゃないもの」

甲状腺の不調、首と背中の痛み、偏頭痛、慢性疲労など、シーアは現在も身体の問題をいくつか抱えている。寝室にあるプロジェクターは天井に向けられており、彼女は愛犬たちとベッドに横たわり、首を休めた状態でテレビを観ることができる。筆者はシーアがオーバーワークで再びダウンしてしまうことを懸念しているが、彼女に立ち止まるつもりはないようだ。「歳をとることはまるで怖くないの」彼女はそう話す。「だってほら、私にはウィッグがあるから」

Translated by Masaaki Yoshida

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