ビヨンセの挑戦、『ライオン・キング』でアフリカンミュージックを世界へ

『ザ・ギフト』に参加したアーティストの大半が本作の制作過程について多くを語ろうとしないのは、「鉄壁の秘密保持契約」のせいだという。しかしアフリカを拠点にするシンガーやプロデューサーの中には、現場でのレコーディングを希望してロサンゼルスまでやってきた人々もいた。スタジオを訪れたバーナ・ボーイは「Ja Ara E」のレコーディングにあたり、『ライオン・キング』のトレイラーを観て士気を高めたという。「(ライオンが)本物としか思えなくて驚いたよ」彼はそう話す。「ぶっ飛ばされたね。マネージメントチームの人間が何人か来てて、色々と教えてもらった。刺激になったよ」

Guilty Beatzもまたロンドンから西海岸に渡り、5日間に渡ってトラック制作に取り組んだ。「誰がどの曲で歌うのかは知らされてなかった」彼はそう話しながらも、自分が組んだビートから生まれる曲のイメージをはっきりと持っていた。「僕はガーナ生まれだから、ハイライフ(西アフリカ発祥の音楽)の要素を打ち出したかった」

正確にプログラミングされたコンテンポラリーなナイジェリアのアフロビートとは異なり、「ハイライフはギターをメインにした音楽でテンポはゆったりめ、あとはシェイカーとかコンガとかボンゴとか、パーカッションをたくさん使ってるのが特徴なんだ」Guilty Betazはそう説明する。そういった要素は、『ザ・ギフト』の中でも突出した2つのビートに反映されている。Bubele BoiiとMagwenziとの共同プロデュースである「Find Your Way Back」では羽毛のように軽やかなギターリフが曲をリードし、気だるいヴァースから鋭いフックへと流れる「Keys to the Kingdom」では全編にわたってハイライフの影響が顕著に表れている。

南アフリカに拠点を置くプロデューサーDJ Lagもまたロサンゼルスを訪れ、1週間の滞在中にgqomと呼ばれる音楽のスタイルを用いた「My Power」を完成させた。穏やかでチルなハイライフとは異なり、BPM126を基本としたミッドテンポのアフロビートであるgqomは、音数を抑えたアッパーな音楽だ。DJ Lagは渡米前に6つのインスト曲をビヨンセに送っており、彼女はそのうち2曲を採用した。彼がロサンゼルスのスタジオを訪れたとき、チームは曲のイメージをすでに固めていたという。「現場で僕がやったことといえば、ヴォーカルのちょっとした編集と、Busiswaのパートを加えたことくらいだ」



6月にアラデがロサンゼルスにやってきた時、(何とか歌声を取り戻した)彼女曰く、ビヨンセは既に150曲近くをストックしていたという。「大きなボードが置いてあって、そこには参加予定のアーティストの名前がリストアップされてた」彼女はそう話す。アラデは自身のニューアルバムに収録されない曲をいくつか持ち込んだが、ビヨンセのチームからもいくつかアイディアを提案されたという。その中にはアルバム中最もアッパーな「Don’t Jealous Me」と「My Power」のデモが含まれており、彼女は両曲に参加することになった。

アラデにとって『ザ・ギフト』への参加は、またとないタイミングで訪れた絶好の機会だった。今年の夏には彼女の新作、『Woman of Steel』の発売が控えている。また『African Giant』を来週リリースするバーナ・ボーイ、そして今週金曜にOkzharpとのコラボレーションEP『Steam Rooms EP』を発表するDJ Lagにとっても、本作への参加は絶好のプロモーションだ。

またビヨンセ自身にとっても、本作のリリースのタイミングは理想的と言えるだろう。アメリカのメインストリームにこそ達していないものの、本作で耳にすることができる様々なスタイルは、現在世界中で注目を集めている。ビヨンセがアンバサダーとしての役割を担うことで、アメリカのオーディエンスもそういった音楽に目を向けるようになるかもしれない。

ビヨンセの名を冠した本作について、Uzowuruはアフロビートに興味があるリスナーにとって理想的なイントロダクションだと話す。「こういう音楽を知らないリスナーにとって、まさに絶好の入門書になってると思う」彼はそう話す。「こういうリズム、メロディー、グルーヴの魅力を一般の人々が理解するには、何かしらのきっかけが必要なんだ。ビヨンセはその架け橋になってくれた」

アラデは本作について「進むべき方向へと人々を導く、大きく重要なステップ」と語る。「こういうコラボレーションは、アメリカとアフリカの両方にいい影響をもたらしてくれるはずよ」

それでも、アラデが見据えるゴールへの道のりはまだまだ長い。「ギャップを完全に埋めること、それが最終目標だからね」


Translated by Masaaki Yoshida

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