ティコが語るフジロックの思い出、叙情的なエレクトロニカを形作った音楽体験

ティコの中心人物、スコット・ハンセン(Courtesy of BEATINK)



―セイント・シナー(Saint Sinner)ことハンナ・コットレルとの出会いと、彼女の声に惹かれた理由を教えてください。

スコット:ハンナとは、彼女がサンフランシスコの家族のもとを訪れていたときに共通の友人を介して知り合ったんだ。そのときはすでにボーカルを入れる想定で曲がいくつか出来あがっていたんだけど、ボーカリストをみつけることに手間どっていたところで。声というのは音楽を大きく特徴づけるものだし、そもそも自分の楽曲に「音」として合う声を探し出すこと自体が難しい工程になるのはわかっていた。でも、ハンナの歌声を聴いたとき、瞬時に「これだ!」と思ったんだ。自分の使ってきたすべての音に調和する、新しい音色としての声。それを目の前にしたことで、今作のヴィジョンがはっきりと浮かび上がって、必要としていた最後のピースが見つかったと思った。

あと、以前からボーカリストを入れた作品をつくるのであれば、いろいろなゲストを迎える形ではなく、ひとりのシンガーと作り上げたいと考えていたんだよね。もちろん、タイミング的にもっと多くの出会いがあれば違う形になっていた可能性もあるけど、彼女の人生やキャリアに関わることに決めて、この作品を一緒に作り込むことができて、本当によかったと思っているよ。



―ではハンナと出会う前から、今作にボーカルを起用することを自分の中で決めていたんですね。

スコット:そうだね。ここ数年アイデアとしてはずっと持っていて、『Epoch』を制作する前くらいからボーカルを入れるつもりで曲を書きはじめていたんだ。実は、2003年の時点でフルでボーカルを入れたレコードを録ったこともある。でも、方向性がハッキリ定まっていなかったせいか、自分でもいまいちピンとこなかったんだ。だから、そのうち成功させたいと思って心に常にひっかかってはいたんだけど、また本格的にやってみようと考えはじめたのは2015年くらいかな。実際に何人かのボーカリストとレコーディングをして、アイデアが上手くいくかを試したりしたよ。ただ、それらは作品としてリリースするというよりも、サイドプロジェクトみたいな感覚でやっていて。ハンナに出会ってようやく、ティコ名義のひとつのレコードとして彼女の声がほしいと思ったんだ。アルバムごとに異なるコンセプトがあっていいと思うしね。

―セイント・シナーがフィーチャーされた曲すべてのメロディーとリリックを書いたのはハンナですか? あなた自身もディレクションをしたり、曲のイメージを伝えて一緒に作った部分もありますか?

スコット:それはほとんどないよ。基本的にはできあがったインスト楽曲を彼女に渡して、ハンナの思う通りに作ってもらったんだ。特に歌詞については、自分の手を一切加えずに自由な表現をしてほしかった。自分が条件をつけることで創造力を締めつけてしまう可能性もあったし、声だけじゃなく、彼女のアーティストとしての感性を信じていたから。お互いがいい仕事をして、美しいなにかが生まれることが真のコラボレーションだと思うし、自分はプロデューサーでありミュージシャン、彼女はボーカリストとしてやるべきことをやって、完成に至ったんだ。

―「Japan」というタイトルのシングルが発表されたことは、日本のファンにとって嬉しい驚きでした。この楽曲はあなたが箱根で過ごした時間がインスピレーションになっているとのことですが、そこに別のストーリーをハンナが加えたということでしょうか?

スコット:そうだね。でも実は、偶然すべてがうまくいったみたいなところがあってさ。日本から(サンフランシスコに)戻ってすぐに作った曲で、たしかに箱根で得たインスピレーションが反映されているんだけど、その時点では「Japan」というタイトルにしようなんて考えていなかったし、彼女に日本に関する歌詞を書いてほしいと伝えたわけでもなかった。ただ、ふいに単語が思い浮かんだから「Japan.wav」っていうファイル名のデモを彼女に送ったんだ。それなのに、彼女から戻ってきたときには「Came home from Japan」ではじまる物語が展開されていて。そうか、この曲はもともと「Japan」と呼ばれるべきだったんだと、そこで初めて自分も気づかされたというか。そんなふうに出来上がったんだ。



―ちなみにインスト楽曲と、ボーカルを入れることを事前に意識した曲では、トラックメイキングの過程に大きな違いはありますか?

スコット:特に最終的な過程、ボーカルを入れた後のアレンジメントの部分に関してはもちろん調整が必要になるから違ってくるけれど、アイデアを曲に起こす部分に関しては特に決まった流れや違いというのはないかな。曲を作っていく過程でアイデアが浮かべばとりあえず上手くいくかどうか試してみるから、最終的に完成するまでに最初とは全然別の方向に落ち着くこともある。そういった意味では、「See」はインストゥルメンタル曲として完成させた後で、ボーカル入りのバージョンを新たに作ったし、「Japan」や「Pink & Blue」はボーカル入りの曲として完成させてからインスト・バージョンをリリースしているから、聴き比べてみると面白いかもしれない。

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