ティコが語るフジロックの思い出、叙情的なエレクトロニカを形作った音楽体験

―『Weather』の制作に、特に影響を与えた音楽を教えてください。

スコット:このアルバムを作るにあたって、音楽制作をはじめた頃のルーツともいえる音楽に立ち返ってみた。Zero 7、エール、シーヴェリー・コーポレーション、シネマティック・オーケストラだとか、自分の今の音楽性を形作るもとになったアーティストの作品をたくさん聴いていたんだ。彼らは素晴らしいインストゥルメンタル・ミュージックの作り手だけれど、ボーカルをフィーチャーした楽曲も多く作っている。それはまさに自分が挑戦しようとしていたことだったし、そのコントラストに改めて感銘を受けて。彼らのレコードが自分の初期の作品にどれほどの影響を与えたかを振り返るとともに、その頃の自分が表現したかったことや、個人的な感傷なんかが一緒に甦ってきて、すごく懐かしい気持ちで初心に戻れた気がするよ。


エールの2004年作『Talkie Walkie』収録曲「Cherry Blossom Girl」


シネマティック・オーケストラの2002年作『Everyday』収録曲「Man With the Movie Camera」

―たしかに今作は、あなたの初期のサウンドを彷彿とさせる部分がとても多いように感じました。ちなみに、現代のエレクトロニック・ミュージックと比べて、さっき名前があがったアーティストの音楽に今なお惹きつけられる理由はなんでしょうか?

スコット:彼らは現在もあらゆる世代のアーティストに影響を与え続けているし、エレクトロニック・ミュージックのコンポーザーにとって常に偉大な先生のような、いわゆるパイオニア的存在で、そのこと自体は今もこの先も変わらないんじゃないかな。エレクトロニック・ミュージックの変遷を語れるほど詳しいわけじゃないから、あくまで自分の経験をもとにした見解だけど、90年代初期に聴きこんでいたジャーマン・ベースやダンス・ミュージックが自分にとってはエレクトロニック・ミュージックの原体験で、その作り手はミュージシャンというよりもむしろエンジニア然としていた。彼らが楽器を使わなくともクールなサウンドを作り出していることに強く惹かれたんだ。僕は20歳まで一度も楽器に触ったことがなくて、ソフトウェア工学を勉強していたから、単純に持っているコンピューターで音が出せるということのほうが理解しやすかったし、自分と繋がりが深いように思えた。

そういったアプローチで曲作りをはじめてから5年くらい経った頃、彼らみたいなアーティストが一斉に世に出てきたんだ。自分の音楽に対する認識がまるごと塗り変わるくらい衝撃的だったよ。音楽性も豊かだし、興味深いテクスチャーと工学的なセンスを共存させている。まったく新しい音色と質感、作曲方法、音楽そのものに対する造詣の深さ……たとえばアレンジメントにしても、クラシックを基調としているのに柔軟で、硬くなりすぎない。彼らの音楽と比べると、自分が作っていたダンス・ミュージックはフレーズの繰り返しに単調な変化をつけていただけのように思えた。もっと違ったやり方があるということを、彼らが教えてくれたんだ。



―また、『Weather』はニンジャ・チューン移籍後初となるリリースでした。それこそシネマティック・オーケストラのように、あなたが多大な影響を受けたであろうエレクトロニック・アーティストが多数在籍していますが、特に音楽的つながりが深いと思うアーティスト、今後コラボレーションをしたいアーティストなどはいますか?

スコット:ボノボは音楽的に自分に近い部分もあるように感じていて、ずっとなにか一緒にできたらと思っているよ。彼のセンス、その揺るがないスタイルや静的な美しさがとても好きで、尊敬しているんだ。それから(傘下レーベルのCounterに所属する)オデッサ。彼らの音楽はマッシブなEDM寄りの音とエモーショナルなメロディーの組み合わせが興味深くて、そのバランス感覚が素晴らしいよね。ちょうどメインストリームとアンダーグラウンドの間に位置していて、どちらにも響くと思う。

―ボノボの音楽について“静的な美しさがある”と表現していましたが、ティコの音楽もまさにデリケートで穏やかな美しさがひとつの魅力だと思います。そういった音楽を作り続けるモチベーションはどこからくるのでしょうか

スコット:穏やかな楽曲を作ろうと意識しているわけではなくて、自分の中にあるものを自然なまま形にするとそうなるんだ。たとえば前作の『Epoch』はティコのレコードの中では動的で、ダークな雰囲気があると思うんだけど、それはメンバーのザック(・ブラウン:Ba,Gt)の影響によるところが大きい。彼は『Awake』(2014年)からギターとベースをメインに弾いてくれているんだけど、僕よりもダークでエッジの効いた音を作るんだ。中でもわかりやすい曲は「Epoch」と「Division」かな。僕にとってはチャレンジだったけど、そういう部分はザックのおかげで発揮されたものだと思う。『Awake』と『Epoch』の2作は特に彼の影響が大きくて、僕ひとりだともっとメロウでリラックスしたムードのものが出来るのかもしれない。生まれもった気質というか、性格が出るのかな。リラックスするのはいいことだけど、ずっとそれだけではきっと面白みがないからね。新しいことにもどんどん挑戦したいと思っているよ。

―そんなあなたの気質とは真逆のように聴こえる音、たとえばメタルやハードコア・パンク、ギャングスタ・ラップのような音楽からインスピレーションを得たことは?

スコット:もちろんあるよ! LTJブケムの『Logical Progression』やDJシャドウの『Entroducing』(共に1996年)に行き着くまでは、ヘヴィな音楽をたくさん聴いていたんだ。ほかのロックキッズと同じように、最初の音楽体験はビートルズだったし、高校生の頃はロックやヘヴィメタル、AC/DCとかよく聴いていた。90年代はパンクにどっぷりで、フガジは今も好きだな。自分のオールタイムベストのひとつにはインターポールの『Turn on the Bright Lights』(2002年)を挙げるし、実際ティコの音楽にも反映されている部分がある。たとえば「PDA」って曲は後半がインスト・ロックみたいになるんだけど、そういう部分は特にバンドとして演奏していて近いものがある気がするんだ。だから答えはYESだね!






ティコ

『Weather』
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国内盤はボーナストラックを追加収録

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