コンドームの所持イコール売春ではない 米で可決された法案がセックスワーカーを救う

カリフォルニアの法案成立には5年もの歳月を費やした

だがバーグ氏は、セックスワーカーの自由を制限する法律が、結果的に女性やLGBTQ全体の自由の制限につながると結論づけることは「飛躍し過ぎではない」とする一方、コンドームを売春の根拠とする法律の影響はそれだけにとどまらない点にも留意すべきだと言う。平均的な白人の異性愛者の女性が1人でバーにいたとしても、疑いの目で見られるかもしれないが、決して違法な所持品検査や摘発の対象とはならない。だが、LGBTQや有色人種が売春を疑われると、警察から目をつけられるとバーグ氏は言う。「反売春法を利用して、一般的にアウトサイダーと見られている人々に対する監視を強めているケースはたくさんあります」と言って、コンドームを売春の根拠として認める法律と浮浪罪の共通点を挙げた。浮浪罪でも、有色人種やトランスジェンダー、特定の性を持たない人々が不当な扱いを受けている。「コンドームを根拠にすることは、実際の職業に関係なく、相手をセックスワーカーとだと決めつけるひとつの手段なんです」

カリフォルニアの法案は実に5年もの歳月を費やしたが、ディアンジェロ氏いわく、ここ数年間に起きた2つの出来事によってようやく州知事のもとにたどり着いた。ひとつは、インターネットの性的人身売買撲滅を目的として2017年に可決されたSESTA/FOSTA法。セックスワーカーの命が切迫した危険にさらされることになったとして、多数の擁護派が猛反発している法律だ。例えば、BackpageのようなWEBサイトを閉鎖することで(大統領選に出馬しているカマラ・ハリス上院議員は大称賛した)、セックスワーカーは顧客を事前にふるい分けることができなくなり、生計を立てるために街に出て客をとらざるを得なくなった。その結果大量のセックスワーカーが街にあふれ、ディアンジェロ氏の推定によれば、サンフランシスコでは街に立つセックスワーカーの数はSESTA/FOSTA法成立前の200%近くに跳ね上がった。ついでに言うと、SWOPに寄せられる暴力事件の件数も急増した。「いったん街に出れば、暴力沙汰が起こるのは当然です。時間の問題ですよ」

SESTA/FOSTA法を契機にセックスワーカーや支持者らが「奮起し」、これまで以上にウィーナー議員のような政治家と接触を試みるようになった、とバーグ氏は言う。この法律によって大手IT企業にも弊害が及んだことも、反対意見をメインストリームへ後押しする一因だったようだ。「本当に、一夜にして支持が集まりました」とディアンジェロ氏。「戦況ががらりと一変しましたよ」

非犯罪化を支持する動きは、最重要議題ではないにしても、大統領選挙の争点になっている。バーニー・サンダース議員からトゥルシー・ギャバード議員、果てはBackpage閉鎖の張本人の1人ハリス議員まで、候補者はみな何らかの形で非犯罪化に前向きな姿勢を示している。セックスワーカーの権利を求める戦いが顕在化し、活動の勢いが増したことで、カリフォルニアの法案可決に理想的な条件が生まれた――ディアンジェロ氏は、世間が売春を労働の一形態として認める方向に進むきっかけになれば、と期待を寄せている。

セックスワーカーの権利を求める戦いは「みなさんが考えているよりも大きなスケールで展開しています。なぜなら、我々はみなさんのコミュニティの一部だからです。我々の仕事は医者や看護師と同じ。我々にも同じ権利を持つ資格があります」と彼女は言う。

「もし我々が危険にさらされているなら、コミュニティの他の人々も同じなんです」

Translated by Akiko Kato

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