米大統領選密着ルポ アンドリュー・ヤンによる奔放な選挙活動の内幕「私はネットの申し子」

オートメーション化は果たして「悪」なのか?

オートメーション化に詳しいMITのエコノミスト、ダロン・アセモグルは、オートメーション化の与える影響と、多くの製造業の仕事が減少したミシガン州、オハイオ州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州におけるトランプの選挙勝利とを関連付けたヤンの考え方は正しい、と述べた。しかし、製造業で400〜500万人の失業者が出た原因をオートメーション化だけのせいにするのは無理がある、とも指摘している。確かにオートメーション化も要因のひとつではあるが、重工業の長期的な衰退と対中貿易問題にも大きな原因がある、とアセモグルは言う。「私の見解では、多くの人が意見を出し合い、繁栄を共有するための方策を練る必要があると思います。彼の意見に賛同できないかもしれませんが、彼の主張には耳を傾けるべきです」

立候補に対する批判の声が上がっていることを承知しているヤンは、将来に対する議論に火を付けるのが目的だという。しかし同時に、自分たちのテリトリーに踏み込むヤンのような政治的部外者を認めようとしない政治の事情通や学者からの批判を受け、彼がやや守りに入る可能性もある。「とにかく最も大きなテーマは、いったいヤンは何者なんだ、ということです」とヤンは言う。「一部の元エコノミストやメディアの人間が、何年もかけてワシントンの雇われ政治家体制を育ててきました。そこへインターネットの世界から私のような人間が現れれば、当然彼らのリアクションは“こいつはいったい何者だ?”となるでしょう」

賑やかなマンハッタンのミッドタウン西39丁目から薄暗いロビーへと足を踏み入れる。野球の話で盛り上がるスーツ姿の2人の男たちの横を通り過ぎて階段を上り、玄関ホールへと降りると、そこは大統領候補ヤンのオフィスだ。選挙キャンペーンはスタートアップのようなものだと言われるが、ヤン会社の本社はその陳腐な表現をそのまま実現している。バスケットボールのミニリングが設置されたオフィスではインターンたちがパソコンに向かい、履歴書が机の上に散乱している。壁には映画『マトリックス』のモーフィアスを思わせる縁なしの黒いサングラスが掛かる。筆者が訪問した時、オフィスには31人のスタッフがいたが、その多くは複数の役割をこなしていた。バーニー・サンダースの選挙陣営は、ニューハンプシャー州の現場だけでももっと多くのスタッフが働いている。「各スタッフの肩書がはっきりしないですが、仕事内容も肩書同様にはっきりしないのです」と、ヤンの選挙副参謀でインターネットのオーガナイザーを担当するカーリー・ライリーは言う。

第一回民主党討論会の第2夜が開催される数日前のことだった。数千万人が注目する討論会は、ヤンのお披露目の場となる。討論会ウィークはヤンの選挙陣営にとってひとつの転換点になるとライリーは見ている。「私たちは従来型の選挙キャンペーンに変わろうとしています。より具体的な行動をベースにした組織づくりが必要とされているのです」と彼女は言う。つまり、ヤン・ギャングを本格的に動員する時が来たのだ。

Translated by Smokva Tokyo

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