米大統領選密着ルポ アンドリュー・ヤンによる奔放な選挙活動の内幕「私はネットの申し子」

「目標を達成するためには、私が米国大統領になるのが最も現実的な方法だ、と確信している」

ヤンと筆者は、彼がスティーヴン・コルベアのテレビ番組の収録に出かける直前に、約1時間半に渡り話し合った。筆者は、4カ月前にヤンがジョー・ローガンへ語った内容を復唱した。「私のアイデアや政策が取り上げられ、問題を解決することができたなら、私は米国大統領になれなくても全く構わないと、ずっと思ってきました」とヤンは発言していたのだ。彼は今でもローガンに述べたように、選挙の勝利よりも自身のアイデアの実現を優先したいと考えているだろうか?

「目標を達成するためには、私が米国大統領になるのが最も現実的な方法だ、とますます確信しています」と彼は言う。「かつては、いつか誰かが私の全てのアイデアを採用し、実現してくれるものと信じていました。しかし今は、それは現実的でないと思っています。だから、自分自身でやらねばならないと考えるようになったのです」

討論会でのヤンは、うまく自分の主張を伝えられなかった。彼は後に、当日は司会者の声がよく聞こえなかったのだと弁解している。だから討論会での最初の発言が「すみません、もう一度お願いします」だったのだ。ヤンとしては、数万人の有権者が「ジョー・バイデンの隣に立っているアジア人」のキーワードでネット検索してくれることを期待していたという。しかし政治と縁のなかった候補者の中で検索ワードのトップを取ったのは、自己啓発の伝道師マリアン・ウィリアムソンだった。

ヤンが後に語ったところによると、討論会で彼のマイクはオフにされており、討論に参加できなかったという。彼のインターネット上のフォロワーたちは、#LetYangSpeak(ヤンに喋らせろ)というハッシュタグを付けて苦情を拡散した。討論会を主催したNBCテレビは、彼のマイクは切れていなかったと否定している。討論会のステージ上でヤンは、車のヘッドライトに照らされて脚をすくませたシカのようだった。彼は経験不足を露呈した。

討論会後の数日間、ヤンはTwitter上で討論会でのふがいなさの言い訳や、討論会に出席した他の民主党候補者に対するサブツイートに追われた。それから数日後、筆者はヤンと電話で話した。彼は「パフォーマンス重視の討論会独特の雰囲気」に飲まれたという。また、コマーシャルの時間にバイデンが寄ってきて、第四次産業革命と中産階級の未来についてヤンと討論したい、と言ったことも明かした。

今後ヤンはさらに何度か民主党討論会に参加すると思われる。筆者は彼に、ポッドキャストに出演していた候補者が、キャッチフレーズを掲げて冒頭や締めの言葉を述べ、30秒間の選挙宣伝をしなければならない状況をどう思うか尋ねてみた。

「バランスを取るのが難しいことですが、私の選挙キャンペーンのテーマのひとつは、私たちのいるべき場所に今いる唯一の理由は私が人間らしくありたいから、ということです。それは比較的はっきりしたことです」と彼は言う。「その状況に適応するためには、望まずとも最低2時間はケーブルニュースの下僕にならねばなりません。でもご存知の通り、私は人間の将来のために戦っているのです」

ヤンの立候補はひとつの教訓であり、戒めになる。米国では、トランプをホワイトハウスへ送り込んだ時の状況が今なお続いている。人種差別主義や荒らしはもちろん、政治に対する嫌悪感、資金集めマシンとなってしまった議員への失望感、そして既存のシステムをぶち壊してくれる門外漢の出現を待ち望む声も広がっている。トランプは期待はずれだった。たぶんアンドリュー・ヤンならやってくれるだろう。少なくともヤンは、不安定な将来を見据え、手遅れになる前に人々を導いてくれる候補者を有権者が待ち望んでいる証拠だと思う。

自由の分配は解決策にならない。アンドリュー・ヤン自身もまた解決策ではないだろう。しかし前回の大統領選挙で政治の素人が現れて国民を熱狂に包んだように、ヤンの立候補は現在の米国や国民が抱える無視できない現実を明らかにしている。

Translated by Smokva Tokyo

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