米大統領選密着ルポ アンドリュー・ヤンによる奔放な選挙活動の内幕「私はネットの申し子」

ヤンが提唱する「自由の分配」とは?

それから1年半後、44歳のヤンは相変わらず自己紹介を続けている。しかし、TV番組『Fear Factor』の司会者からポッドキャスト王となったジョー・ローガンとの対談や、ヤンのウェブサイトに記載された寄せ集めの長々とした政策リストを読んで彼のことを知った人々の多くは、興味をそそられ、中には魅了される者もいた。数カ月前まで脇役だったヤンは、最近のいくつかの世論調査では候補者のトップ10に入るまでになった。

民主党予備選挙の投票者を対象としたMorning Consultによる最新の調査でヤンは、コリー・ブッカー上院議員と並ぶ7位にランクされた。同調査でヤンより下位になった候補者たちの選出公職年数を合計すると、150年以上になる。ヤンは、2019年6月と7月に行われる米国民主党全国委員会が主催する最初の2つの討論会への参加資格を早々に得た。ヤンのTwitterのフォロワー数は、民主党候補者の半数が抱える人数よりも多い。マイアミでの討論会における期待はずれのパフォーマンスにもかかわらず(ヤンは全20人の候補者の中で最も発言が少なかった)、ヤンは2019年秋に行われる第3、第4回目の討論会への参加に必要な正味13万人のドナーを集めた。

ヤンの主張によれば、ドナルド・トランプが選挙に勝利したのは、米中西部の製造業がオートメーション化され400万人の仕事が奪われたからだという。結果、経済の不安定を招き生活の質を低下させた。さらに、多くの米国民の絶望感が、トランプへの投票へと駆り立てたのだ。オートメーション化によって製造業が受けた影響は、トラック輸送、コールセンター、ファストフード、小売店などにも同様に広がるだろう、とヤンは言う。「私たちは、経済とテクノロジーにおける米国史上最大の転換期の3イニング目に入っている」と彼は言いたいのだ。

この転換に対するヤンの最重要プラン、即ち彼のビッグアイデアとは、全国民に対する最低所得保障制度(ユニバーサル・ベーシック・インカム)だ。彼はこの政策を、自由の分配(Freedom Dividend)と呼んでいる(ヤンは、ユニバーサル・ベーシック・インカムという表現よりも保守層に受けがよいという理由から、自由の分配という呼び名を選んだ)。自由の分配は、18歳以上の全ての米国民に無条件で月1000ドル(約10万円)を支給する政策だ。数兆ドル規模の新政策案と既存の社会保障との関連性について、彼は未だ解決策を打ち出していない。しかし彼はトマス・ペイン、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア、リチャード・ニクソンらを念頭に、最低所得保障の発想は何世紀も前から存在する、と主張している。ロボットやAIの台頭と同じくらい複雑な問題に対するシンプルでわかりやすい解決策に魅力が感じられるのは、明らかだ。「皆さんは、“全ての国民に毎月1000ドルを分配することを公約に掲げ、大統領選に立候補したアジア人がいる”ことを知っているでしょう」とヤンは、Fish Fryイベントで語った。「サウスカロライナの皆さん、これらは全て実現できるのです!」

Translated by Smokva Tokyo

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