米大統領選密着ルポ アンドリュー・ヤンによる奔放な選挙活動の内幕「私はネットの申し子」

ヤン・ギャングの一員を目指す極右主義者や人種差別主義者の存在

2019年2月、ヤンはジョー・ローガンによるポッドキャスト番組『The Joe Rogan Experience』に出演した。ローガンは、2017年と2018年にApple Podcastsで2番目に多いダウンロード数を記録するほど幅広いプラットフォームを持っている。9年目を迎えるローガンの番組は、YouTube上に投稿される度に何百万人ものユーザーが視聴している。イーロン・マスクをはじめ、陰謀論者で栄養補助食品の行商人でもあるアレックス・ジョーンズ、ベストセラー作家で極右の代表格とされるジョーダン・ピーターソン、テレビ番組『Jackass』に出演したSteve-O、ボクサーから大麻起業家へと転身したマイク・タイソンなど、特に人気の高い対談番組もあり、ローガンによる親しみやすい自由主義的信条に触れることができる。

ヤンの出演したエピソードNo.1245はYouTubeで330万人が視聴したが、ローガンの基準からするとまずまずの数字だった。しかしヤンの選挙活動にとっては、ひとつのターニングポイントになった。彼のTwitterのフォロワー数は急増し、Twitterの共同創業者のジャック・ドーシーをはじめ多くのドナーから寄付金が集まった。2019年2月初めには、俳優のニコラス・ケイジが1000ドル(約10万円)を寄付している。ローガンのポッドキャスト番組から数週間の内に、ヤンは第一回討論会への参加資格に必要な6万5000人のドナーを集めた。

やがてヤンは、4chanやDiscordのようなインターネット上の一風変わった場所でもフォロワーを増やしていった。4chanは検閲を受けないRedditのようなもので、女性蔑視や反ユダヤ主義が蔓延している。またDiscordは、極右主義者や白人至上主義者がネット上で組織化するのにも利用されるチャットアプリだ。白人国家主義者のリチャード・スペンサーは、ヤンに対する好意的なツイートを投稿している。またネオナチのウェブサイトDaily Stormerは、ヤンの選挙キャンペーンに関心を示した。

ここで微妙な疑問が湧く。いったいどこまでがヤンの功績で、彼自身や彼の選挙陣営はどこまで把握しているのだろうか?

ヤンは、人種差別主義者や反ユダヤ主義者らからのいかなる支援も受けたことがない、と主張している。またヤンの選挙陣営は支援者やボランティアに対し、Reddit上の問題ある投稿の「down-vote」を呼びかけると同時に、ヤン陣営のコアバリューである「誠実と透明性」や「思いやりと寛容」のスローガンを共有するよう訴えた。「“あなたは人種差別主義者だ”、“それは人種差別的だ”、“それは侮辱にあたる”というような表現はせず、私たちは “我々の支持する意見はこうだ”という言い方をします」と選挙参謀兼運転手のザック・グローマンは言う。

ヤンは、いわゆるインテレクチュアル・ダークウェブに協調する有名ポッドキャストへも積極的に出演した。ローガンの番組がその筆頭だが、ヤンはどのような取材も断らないというスタンスなのだ。台湾出身の移民の子として育った少年時代に民族的な差別やいじめに遭った経験から、彼はアンデンティティ・ポリティクスに反対の立場を取っている。ヤンは、白人の平均余命が短くなっているとTwitterで指摘しているが、これは極右思想を持つ支援者を手なづけようとしているのか、それとも現実の公衆衛生問題の危機について論じているのだろうか?

自らヤン・ギャングの一員を目指す極右主義者や人種差別主義者の存在は、ヤンによる選挙活動の副産物といえる。彼は現状に不満を抱く有権者の心を掴むため、どのような場所へでも喜んで出かけていった。入場券が不要でほとんどの人が利用するインターネットも、その場所のひとつだ。彼は幻滅を感じている人々が、共和党も民主党もオートメーション化時代に対応した経済安定策を打ち出していない点を憂慮していることに気づいた。拒絶や非難をしようが、或いはReddit上でdown-voteしようがヤンは、長年の希望だった優位性を得られずに怒るインターネット上の白人を惹きつけてしまうのだ。

ヤンとしてはそのような人々からの支援を受けたくないとして、ヤン・ギャングからの排除を試みてきた。しかし同時に、ここまでの選挙戦が順調に進んでいるのは、彼を支援するインターネット上のコミュニティのおかげだという事実も認めている。

Translated by Smokva Tokyo

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE