サマソニ現地レポ ウィーザーが試行錯誤の末に到達した「ライブバンド」としての生き方

ステージ上には、アイボリー・カラーのギブソンSGを抱え、同じ色のハットを目深にかぶったリヴァース。彼の左右には、リヴァースよりもずっとロックスターらしい衣装をまとうようになったブライアン・ベル(Gt)、スコット・シュライナー(Ba)が。そして後ろに目をやると、デビュー以来変わらない普段着仕様のパトリック・ウィルソン(Dr)が元気にビートを叩き出している。ツアーにサポート・メンバーを迎えた時期もあったが、やはりこの凸凹4ピースこそウィーザーの信条。バックドロップにWのシンボルマークを掲げている以外、演出らしい演出も一切なく、この後に登場したThe 1975の豪華絢爛な視覚効果と比較すると簡素すぎるほど簡素だ。シンプルに音のみでぶつかって行こうという気概のあらわれとも思える。

印象に残ったのは、リヴァースのコミュニケーション能力の高さ。「ちょっとジメジメですね……ハジメジメまして!」と渾身のオヤジギャグも繰り出しつつ、「パーフェクト・シチュエーション」や「アイランド・イン・ザ・サン」では客を盛んに煽って合唱を誘う。皆が僕たちの曲を知っている、という自信がなければ成立しない芸当だ。今の彼らは、それが可能な厚い信頼関係をオーディエンスとの間にしっかり確保している。


Photo by Kazushi Toyota

しつこいようだが、初期のライブではリヴァースはただ突っ立って歌うばかりで、さっさとライブを終わらせてここから去りたい、という感じの苦悶の表情すら浮かべることもあったのだ。ステージでの道化役はもっぱらベーシストのマット・シャープの仕事で、熱狂する観客を無表情で見ながら歌うリヴァースにはロックスターらしい精気が欠けていた。そうした態度を、むしろクールであると受け止めていたファンも少なくなかったと思う。長い長い試行錯誤の末、ファンとの交歓を信じられるところまで来たリヴァースは、「ライブバンド」としての生き方を肯定できる境地に達したのだ。普通のバンドなら最初からそこがモチベーションになりそうなところだが、ウィーザーはそうではなかった。


Photo by Kazushi Toyota

2曲のカバー・ソング、TOTOの「アフリカ」とa-haの「テイク・オン・ミー」は、まるで自分たちの曲のような顔をして淡々と歌う様子が痛快。誰もが知っている大ヒット曲をわざわざ取り上げたのも、「ライブバンド=ウィーザー」ならではのチョイスと言えるだろう。この2曲ではいにしえのシンセ、プロフェット5をブライアンが操る。「テイク・オン・ミー」の間奏では、元メタル小僧のリヴァースが流麗なタッピングを披露する場面もあった。

ラストの「セイ・イット・エイント・ソー」でも、見せ場はリヴァースのエモーショナルなギター・ソロ。思えば『ブルー・アルバム』がリリースされた94年当時、ニルヴァーナ以降のオルタナ・バンドにとってメタル/ハード・ロック的な要素を前面に出すのは御法度だったが、ウィーザーは開けっぴろげにキッスやクワイエット・ライオットへの愛を表明し、「ホリデイ」でもブライアン・メイを思わせるフレーズを平然と鳴らしていた。メタル/ハード・ロックにどっぷり漬かっていた青年がピクシーズやニルヴァーナと出会ったことで、ウィーザーはあのような味わい深いパワー・ポップを編み出すことができたのだ。そうした“原点”を示す「セイ・イット・エイント・ソー」を、今も情感豊かに、たっぷりと熱を込めて表現できるウィーザーは、恐らく誰よりもウィーザーのファンなのだろう。この熱が失われない限り、彼らはまだまだ息の長い活動を続けられるはずだ。

〈セットリスト〉

1.Buddy Holly
2.My Name Is Jonas
3.Perfect Situation
4.Surf Wax America
5.Africa
6.Hash Pipe
7.Undone – The Sweater Song
8.Take On Me
9.Island In The Sun
10.Beverly Hills
11.Pork And Beans
12.Say It Ain’t So


Photo by Kazushi Toyota

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