サマソニ現地レポ タッシュ・サルタナ、人間離れした「全身楽器」の独壇場パフォーマンス

タッシュ・サルタナ(Photo by Kazushi Toyota)

早々と完全ソールドアウトを記録した東京2日目。邦楽アクト以外はお世辞にも大入りとは言えないSONIC STAGEだが、豪州メルボルンからやって来たシンガーソングライター、タッシュ・サルタナの開演を待つファンの熱気は並々ならぬものがあった。前日の大阪公演は強風によるステージ設営の遅れが原因で出演キャンセルとなってしまったため、この夜が正真正銘の日本初パフォーマンスである。

筆者はタッシュのひとつ前に出演したコインの終演後に最前列へと潜り込むことに成功。着々とセッティングが進むステージには曼荼羅模様のカーペット、おびただしい量のエフェクター、シンセサイザーやMPCを設置した卓(梵字のショールが垂らされている)、ピンクフラミンゴにサボテンにレインボーのネオン管、ヒマラヤ岩塩やお香らしき置物で飾り付けたテーブルなどが所狭しと並べられていく。まるで彼女のベッドルーム・スタジオをそのまま再現したかのようにスピリチュアルなセットに、否が応でもパフォーマンスへの期待値が高まるというものだ。

暗転と共にボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの「Is This Love」が爆音で響き渡ると、大歓声の中ブルーのフェンダー・ストラトキャスターを抱えたタッシュが裸足で登場する。張り詰めた空気を解きほぐすような美しいギターのメロディと、少しハスキーで憂いを帯びた歌声が天高く伸びていくと、そのままデビュー・アルバム『Flow State』のオープニングと同様に「Seed (intro)」を演奏。音源よりもラフで自由なヴォーカリゼーションに惚れ惚れしていると、続く「Big Smoke」では「ワン・パーソン・バンド」と呼ばれる彼女のスタイルを知らしめたルーパー(≒ループ・ペダル)を駆使して、切れ味鋭いカッティングとリフ、MPCによる低音、シンセサイザーの旋律、哀愁漂うトランペット、さらにボイスパーカッションによるビートを幾重にもレイヤーしながらサウンドを構築していく「全身楽器」っぷりに、タッシュの名をはじめて知ったであろう後方のオーディエンスから戸惑いにも似た歓声が沸き起こる。









一度は完成形に見えたその「音たち」をペダルでストップさせると、時おりステージを左右に駆け回りながら恍惚とした表情でギター・ソロを弾き倒すのだが、極限までディストーションで歪ませまくったメロディやテクニカルな速弾きは、彼女が影響を受けたというメガデスも顔負けだ。そして、眠っていた「音たち」を再びペダルでガツンと呼び覚まして「伏線」を回収すると、ステージに立っているのがたった1人とは到底信じられないほどの音圧とグルーヴが渦を巻いて襲いかかってくる。洋服の裾をもビリビリと震わせる低音はジェイムス・ブレイクのライブを連想させるが、これは、彼女のルーツのひとつにクラブ・ミュージックがあることの証明だろう。レゲエのレイドバックしたタイム感と粘っこいヴォーカルが印象的な「Mystik」では、終盤でBPMが急加速していく展開に合わせてまたもや泣きのギター・ソロを弾きまくる。タッシュがゾーン(=フロー状態)に突入すると、ステージ両端に設けられた小さなお立ち台で壮絶なプレイを見せつけてくれるのだが、ギターを床に置いてDJのようなスクラッチを披露し、足で弦を踏みつけるなど本能の赴くままギターと戯れる姿は、誇張抜きにジミ・ヘンドリックスが憑依したみたいだった(さすがに歯弾きやギターに火を点けるシーンはなかったけれど)。

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