サザン新曲「愛はスローにちょっとずつ」と「いとしのエリー」を巡る考証

サザンオールスターズの桑田佳祐(Courtesy of ビクターエンタテインメント)

サザンオールスターズの新曲「愛はスローにちょっとずつ」がリリースされた。カップリングなしの単曲シングルとして、デジタル配信は8月12日にスタート。フィジカル版はデビュー40周年記念本『SOUTHERN ALL STARS YEARBOOK「40」』に封入のCDとなり、8月末に届けられる予定だという。

「愛はスローにちょっとずつ」は今年行われた40周年記念ツアーでも、唯一の新曲として披露されている。6月16日に東京ドーム公演を観た僕は、コンサート・レポートに「初期サザンを思い起こすようなバラード」と書いている。レコーディング・バージョンをあらためて聴いてみると、イントロのキーボードに「いとしのエリー」を思い起こすフレーズがあるのに気づく。思えば、今回のツアーでは「いとしのエリー」や「TSUNAMI」が演奏されなかったのだが、それはこの「愛はスローにちょっとずつ」ができてしまったからかもしれない。



40周年を期して、アイデアやコンセプトを凝らして作り上げた新曲ではなさそう。むしろ、不意に浮かんで、一気に書き上げた曲。ある種、そういう想定外の「できちゃった曲」の香りがするのが「愛はスローにちょっとずつ」だ。東京ドーム公演の時点ではリリースの仕方も決まっていなかったようだから、レコーディングはその後に行われたのかもしれない。

スムースで、メロウで、どこか懐かしくもあるムードにすっと引き込まれる感傷的なバラード。サウンド的には、あえて彼らがルーツとする1970年代以前のロック、ポップの要素だけで作ったようにも思われる。ジョージ・ハリスン風のスライド・ギター・ソロが出てくるあたりはお約束っぽい遊び心でもある。

同じバラードでも「TSUNAMI」ははるかに円熟味を感じさせるソング・クラフトが凝らされていた。テクニカルに構成されていたと言ってもいい。比べると、「愛はスローにちょっとずつ」は転調もせず、一筆書きのように、Aメロ、Bメロ、Cメロと続いていくだけ。だが、桑田佳祐の天才がこぼれ落ちるのは、その三つのメロディーの関係性だ。それぞれのメロディーの譜割りが発するリズミックな感覚が研ぎすまされているので、AメロからBメロへ、BメロからCメロへと切り替わる瞬間に、次はそう展開するのか!というスリルがある。

コード進行やサウンドでドラマチックに盛り上げることをしなくても、そういうメロディー(の中にあるリズム感覚)の運びだけで、さりげなく名曲を成立させてしまう。そこが桑田佳祐のソングライターとしての恐るべき天性だ。この新曲を聴いて、あらためて、それを思い知ったところもある。

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