ジェイ・ソムが語る傑作『Anak Ko』の背景、フィリピン人女性としてのアイデンティティ

ジェイ・ソム(Photo by Kana Tarumi)



─ずっとトランペットを学んでたんですよね。そっちの道に進もうっていうのはなかった?

JS:9歳か10歳で演奏をはじめてそれから、小中高大学の途中まで10年くらいやってて、セクションリーダーをずっとやってたし気合い入れてやってたのね。一番の情熱の対象で、聴くものもジャズとクラシックばかりだったんだけど、あるときから音楽制作の方に興味が行きはじめて、それで音楽学校にお金払うのもなんだかなと思ってやめちゃった。

─変な話、インディロックとかインディポップって、正規な音楽教育を受けていないことが長いことアイデンティティの大事な根幹だったようにも思うのですが、最近だとちゃんと教育を受けた人たちがあえてインディロックやポップに行くケースが増えているように思えるんです。ジェイ・ソムさんもトランペットはきっとめちゃくちゃうまいわけじゃないですか。でも、それを自作に反映させたりはしない。どうしてなんですかね。

JS:こないだもフジロックで私たちの前に出た日本のバンド(ずっと真夜中でいいのに。)が、ものすごくしっかりしたファンキーに演奏をするバンドで、ほんとに完璧でよく訓練された演奏だったんだけど、アメリカのオルタナシーンには、そういうディシプリンが本当にないからね。そういうもんだと思って気にもしてないんだけど、わたし自身は自分が受けた教育は価値があるし、役にも立ってると思うかな。トランペットでいうと、ヴァガボンのアルバムでトランペット吹いたりしてるよ。

─そういえば今作にはヴァガボンことレティシア・タムコさんも参加してましたね。仲良いんですか?

JS:彼女は仲良し。同じ頃に彼女もLAに移ってきて、共通の友だちのSasamiを通して知り合って、彼女のレコードでトランペットを吹いたお返しに「歌って!」ってお願いしてコーラスを歌ってもらったんだけど、そんなことはなくても、しょっちゅう一緒につるんでる。


ヴァガボンが9月27日にリリースするニューアルバム『All the Women in Me』収録曲「Flood Hands」


Sasamiが2019年に発表した1stアルバム『Sasami』収録曲「Not The Time」

─ヴァガボンの新作は名門レーベルNonesuchからで、とても楽しみにしてるんですけど、先行配信の1曲を聴いた限りだと、だいぶ方向性が変わってますね。

JS:元々彼女はわりと方向性を変えるタイプなの。「これ聴いて聴いて」って聴かせてもらったものが次に聴くと全然違うものになってるというのはよくあって。新作はまだ聴いてないけど、すごくいいものになると思う。

─ぼくも楽しみにしてます。とはいえなんか最近ちょっと気がかりなのは、インディシーンから出てきて注目されると、すぐにレーベルがついてプロダクション規模も大きくなって、サウンドもヴィジュアルも一気に磨かれちゃって、なんか成長のスピードが早すぎるような、そんな感じがするんですよね。あくまでも一般論としてですが。

JS:言ってることはわかるかも。自分の場合だとレーベルはわたしがつくるサウンドを好きでいてくれて、そのままでいることをサポートしてくれるし、信頼してくれてるんでそれはありがたいことだと思ってる。外からプロデューサーやエンジニアに入ってくることについては、自分はオープンでいるつもりではあるんだけど、おそらく自分の作品のなかに他人の痕跡がついてしまうことには、まだ抵抗はあって。

─どうしてですかね。

JS:自分でやってこそフルパッケージになるっていう感覚があるのと、まだまだ自分も成長してる途中だから、予算規模が大きくなれば、いい機材もどんどん買えて、自分なりにプロダクションのスタイルも大きくできるようにも思うから。機材面とかに関しては、こう見えてかなりギークなところがあるんで。

─でも、いずれは外部の製作陣とつくることも考える?

JS:もちろんもちろん。でも計画はしたくなくて、そのタイミングがきたらわかるっていうふうにしておきたいかな。


Photo by Kana Tarumi

─自分のキャリアっていうことについては、何かプランのようなものがあったんですか?

JS:なかったなあ。10代後半から前のアルバムを出すまでは、本当に週6〜7日レストランで働いていて家賃を払うので精一杯。家賃払うために生きてるっていう感じで。だから音楽はあくまでも趣味だったし、それこそいまは誰でも音楽家になれるような時代で音源をオンラインにあげたからってそれで何かが起きるなんて期待もしてなかったから、逆に、多くの人に聴いてもらえたことがショックだった。

─でも、いざこうやって音楽家としてキャリアを積むようになって、今後、こうなって行きたいといった願いとか欲求みたいなものは出てきました?

JS:少しはクリアになってきたような気はする。とはいえ、予想外なことがたくさん起きるから、いつも気持ちが変動してる。パラモアとツアー行くぞ!とかデス・キャブ・フォー・キューティーとコンサートやるぞ!とか、日本に行くぞ!とか、びっくりするようなことばっかりだから。実際、今回の日本行きだって、知らされたの4週間前だし(笑)。

─そりゃ驚きますね。

JS:数年はそんな感じでツアーを続けるつもりだけど、最近よく思ってるのは、もっとオーディオプロダクションの仕事をやりたいってことかな。他のバンドのレコーディングを手伝ったりプロデュースしたりすることをやりたいし、本当に自分が好きなことって思うと、やっぱりそれだなって気分は強くなってる。

─他人のレコーディングをするのは、何が楽しいんですか?

JS:演奏してるのが自分じゃないところ(笑)。人の作品づくりに触れていると、こういうアレンジするんだとか、いろいろと勉強になることが多くて。プロデュースの仕事って、相手のアタマのなかに入るみたいな感じだから、相手が音楽の教育を受けてるかどうかとか関係なく、本当に面白い。

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