ジェイ・ソムが語る傑作『Anak Ko』の背景、フィリピン人女性としてのアイデンティティ

ジェイ・ソム(Photo by Kana Tarumi)



─ちらっと聞いたところによると、お酒飲むのをやめたらしいですね。

JS:そうなの。音楽業界って、とにかくどこにいってもお酒がついて回るし、飲むことが推奨されるわけね。ただでお酒が振舞われて、ライブ終わったらみんなが奢ってくれるし。お酒と音楽がそういう意味ではそいう感じでセットなのは、たぶんどこに行ってもそうなんだけど、自分は飲みすぎてしょっちゅう意識失ったりしてたから、お酒入ってる自分があまり好きでなくなってきて。かつ、ほらお酒っていい逃避にもなるから、そういうのよくないなって。今まで自分がした決断で一番いい決断だったかも、とは思ってる。

─そのことによって音楽への向き合い方とか変わりました?

JS:チャレンジを正面から受けられるようになったって感じかな。曲をつくっているときでも、そこで扱われている感情と対峙しなくてはならないんだけど、それとガチンコで向き合うって感じはあるかな。以前はお酒飲みながらつくったりしてたんだけど、やめちゃうと結構手持ち無沙汰でもあって「退屈だよー」って感じることもあるんだけど、逆にいうと自分を忙しくしてないといけないから、怠惰ではなくなったと思う。友だちとの関係も、仕事の人間関係も。結局のところ、仕事でも重要なのは誠実さとコミュニケーションだと思うんで、そういうのも丁寧にやれるようになったというか。




Photo by Kana Tarumi

─今回の作品は、僭越ながら、すごくいいアルバムだと思ってて、今年の年間ベストにもきっとランクインするいい内容だと思うんです。


JS:あら(笑)。

─ただ、なんていうか何がいいんだか、いまひとつ分からないところもあって。前作とあまり変わらないといえば変わらないようにも思うんですが、その一方で、あるレビューに「才能が一気に開花した」というような賛辞もあって、たしかにそういう感じもするんですよね。ひとまわり大きくなったっていうか。何がそう思わせるんですかね?

JS:うーん。自分の仲のいい友達もそう言ってくれるんだけど、自分からすると「なんで?」って感じは正直あって。新しいだれかが参加しているというわけでもないし、前作から2年経って、その間に起きた成長が自然と反映されてるってことなのかな。

─作曲やプロダクションが成熟してきた、っていうような手応えはあります?

JS:うーん。メディアの人はよく「成熟」って言葉を使うけど、言われてる方は実感あるのかな。ただ自分に正直に音楽をつくろうとしてるだけだからね。言わんとしてることはわかるだけど。




─何が今作のよさなのかが、よくわかんないんですよ。

JS:あはは。

─何か変えました?

JS:どうだろう。以前は結構せっかちに音楽をつくってたのね。いい加減なところも多いから。でも今回は何回もテイクを録ったりとか、ちゃんとやったかな。

─自分の過去の作品は聴き返したりはするんですか?

JS:聴くようにしてる。自分の音楽を聴くのは基本好きだし。というのも、その時の自分の感情や経験がそこには刻印されているから。一種のタイムスタンプだと思う。飛行機に乗ったりすると前のアルバムを通しで聴いたりするんだけど、まあ、でも、愛憎半ばする感じかな。「あたしったら最高じゃん!」って思うときもあるし、「おめえ、2度と自分でギター弾くんじゃねえぞ!」って思ったり(笑)。でも、前の自分のものを聴くことは、成長することを助けてはくれると思う。

─制作のときには、リファレンスとして他人の音源を聴くことはあるんですか?

JS:とくに明確にリファレンスと呼べるものはないんだけど、昔から好きなものをよく聴くことはする。新しいものをつくるにはなんらかのインスピレーションが必要なので。オリジナルなものをつくるためには、ほかのものを聴いちゃダメって言う人もいるんだけど、わたしはそういうタイプじゃないのね。

─今作をつくる間は何を聴いてました?

JS:ポーティスヘッドをよく聴いてたかな。

─えーと、その痕跡はあんましわかんないですけど(笑)。

JS:あはは。そのうちわかってくるよ(笑)。あと、これまでそこまでファンでもなかったんだけど、レディオヘッドをちゃんと聴き込んで、おかげで大好きになった。あとは、ピンバックとコクトー・ツインズかな。ドリームポップとシューゲイザーは一番好きでわたしのバックグラウンドだから。それと最近のバンドでビッグ・シーフやLolmeidaとか、Alvvaysとか。

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