ジェイ・ソムが語る傑作『Anak Ko』の背景、フィリピン人女性としてのアイデンティティ

─ずいぶんたくさんタトゥー入れてますけど、どういうものなんですか? 

JS:最初のタトゥーは私の犬ね。あと、これはデス・キャブ・フォー・キューティーでしょ(『We Have the Facts and We’re Voting Yes』のアートワーク)。あとはパートナーがプレゼントしてくれたものだったり。あ、この(左腕の)シナモンロールは前回のツアーのタトゥーでバンドメンバー全員が入れてるよ。


Photo by Kana Tarumi

─個人的にはタトゥーってちょっと抵抗あるんですよ。

JS:聞いたよ! 日本だとタトゥーしてると温泉入れないんでしょ?(笑)

─ですです。「反社」っていって、アンタイ・ソーシャルな人たちだと思われます。

JS:わたしたちの世代の感覚だと、タトゥーを入れない方が珍しいくらいで、ずっと残るというのがやっぱりいいんだと思う。意味がある感じがして。うちのお母さんはイヤがるけど。

─お母さんといえば、今作の「Anok Ko」っていうアルバムタイトルはタガログ語ですよね。

JS:そうそう。「わたしの子ども」(マイ・チャイルド)っていう意味。アルバムタイトルは最後の最後まで決まらなくて、歌のタイトルから取ろうか歌詞の一節から取ろうかとかずっと悩んでて、どうしようと思って電話を眺めてたら、お母さんとのメッセが出てきて。彼女のメッセには、いつも「Anok Ko、元気で」とか「Anok Ko、愛してる」ってあって、これだ、と思って。象徴的な意味でいえば、本作はわたしの子どものようなものでもあるわけだし。

─ご両親ともに、フィリピン生まれですか?

JS:そう。

─フィリピン文化の影響っていうのは、日々の生活のなかにあったんですか?

JS:食べ物とかそういう部分ではそうだけど、音楽の部分では、どうだろう。あるとすれば、カラオケ文化かなあ(笑)。フィリピン人は、死ぬほどカラオケが好きな人たちなんで、だいたいの家にカラオケマシンがあって、みんなで集まってよく歌ってる。

─何歌うんですか?

JS:アメリカのポップスが多いかな。ジャーニーはみんな大好き(笑)。

─ああ、今のボーカルはフィリピンの方ですもんね。

JS:そう。みんなめっちゃ誇りに思ってる(笑)。

─それは正しいですよ。どうでもいい話なんですけど、日本のミュージシャンにブラックミュージックのエッセンスを授けたのは、実は米軍にいたフィリピン人のミュージシャンだっていう話を聞いたことがあって、へえと思ったんですけど、ぼくの勝手な印象ですけど、フィリピンの人たちってリズム感がいいように思うんです。ジェイ・ソムさんも、ギターのカッティングとか絶妙にリズミックですよね。バウンシーというか。

JS:そういうのがあるとしたら両親の影響かなあ。お父さんはDJやったりもするし、お母さんもピアノは弾くし。

─これまたどうでもいいことなんですけど、Fannyってバンド知ってます? 70年代初頭のバンドで、自分もつい最近知ったんですけど。

JS:知らないなあ。

─このグループ、実は全員女性の初のロックバンドと言われてて、フロントのふたりがフィリピン移民の姉妹なんですよ。グルービーでブルージーをロックを演奏するんですがカッコいいんですよ。初期のハートみたいな。ボニー・レイットなんかが彼女らの世話になってたなんていう話もあって、ぼくが聴いたポッドキャストだと、「ロック史上最も黙殺されてきた女性バンド」って紹介のされ方をされてたんですが。

JS:へえ。面白い。聴いてみる。



─フィリピンで演奏したことは?

JS:まだなくて。ライブやりたいとはずっと思ってる。

─最近のアメリカの音楽シーンを見てると、それこそミツキさんとか、セン・モリモトさんとか、CHAIとか日本オリジンのミュージシャンが頑張ってて、日本だけでなくアジアを見回しても、さっき名前のあがったSasamiさんとか、それこそジェイ・ソムさんとか、アジア人の活躍が目立つようになったと思うんです。海の向こうの遠くから眺めている身としては、同じアジア人がそうやって頑張ってるのは、素直に嬉しいというか応援したくなるわけなんですけど、当人としてはどうなんですか? いちいち人種的バックグラウンドを聞かれたり、それと紐付けられたりするのは、居心地の悪さがあったりするんですか?

JS:わたしに関して言えば、フィリピンやその文化について話すのは大好きだし、それが徐々にでも受け入れられていくのは嬉しいことだと思っていて。移民の子としてアメリカで育つと、どうしたって「内面化された人種差別」に悩まされるのね。私もそれでいじめられたり、からかわれたりして、アイデンティティを見つけることがとても難しかった。自分の家で食べている食事に誇りを持とうと思っても、いざ外に出てそれを言うと、からかわれるわけじゃない? とくにわたしが育ったのは白人中心のエリアだったから、自分のフィリピン人としてのアイデンティティとアメリカ人としてのアイデンティティを折り合いをつけるためのコモングラウンドを見つけるのが難しかった。

─そういう状況は少しは変わってきているんですか? 変わってきてるという実感はあります?

JS:少しは変わってきてると思うし、ちゃんとそういうことを話せるようにもなってきたような。少なくともわたしの周りは、無神経なことを言う人はあまりいないかな。

─Sasamiさんやレティシア・タムコさんと仲良しだと言ってましたけど、Sasamiさんは韓国、レティシアさんはカメルーンがオリジンで、ジェイ・ソムさんが育つなかで感じた苦労や苦悩などを同じように体験してきた人たちなんじゃないかと思うんですけど、そういうことをよく話したりはするんですか?

JS:よくというよりも、ほとんどそういうことしか話してないかも。音楽の世界に自分も参加するようになってなって何が一番素晴らしいことだったかというと実はそこで、移民であることだったり、女性であることについて語り合ったり、不満や愚痴を言い合ったりすることのできる友だちや仲間ができたこと。電話で「どお?」って感じで、声をかけあうことができるのは本当に心強いし、わたしたちは、いつだってそうやって声に出して、そういうことを常に話し続けるべきなんだと思う。

─いいですね。で、最後の質問なんですけど、今作はピッチフォークのレビューで何点取れそうですかね。ぼくの予想だと8.3から8.7の間かと思うんですが(笑)。ちなみに前作は、8.6でした。

JS:昨日ちょうどそれについて話してたところ!(笑)。マネージャーは高得点を取るっていうんだけど、わたしは期待しすぎてがっかりしたくないから、5.0ってことにしとこうかな。

─そりゃ低すぎますよ。

JS:だといいけどね。

─いいお話をたくさんありがとうございました。

JS:いいえ。どういたしまして。






ジェイ・ソム
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