フライング・ロータスを変えた音楽学習「クレイジーなものを作るには基礎が必要だ」

フライング・ロータス(Courtesy of BEAT RECORDS)

来日間近のフライング・ロータスに電話インタビューを実施。9月26日に東京・新木場スタジオコーストで一夜限りの3Dライブ(チケットは完売、ルイス・コールのサプライズ出演も決定)を開催する彼が、今年5月に発表したニューアルバム『FLAMAGRA』やステージの展望などについて語ってくれた。聞き手は『Jazz The New Chapter』シリーズで知られるジャズ評論家で、『FLAMAGRA』の日本盤ライナーノーツにも携わった柳樂光隆。


スティーヴ・エリソンことフライング・ロータスの『Flamagra』を聴いた時、前作『You’re Dead!』とあまりにも別物のサウンドに驚いてしまった。前作ではサンダーキャットやカマシ・ワシントンといったジャズミュージシャンの生演奏を素材のように扱い、それらを大胆にエディットしてミックスすることで斬新なサウンドを生み出していたのだが、今作では前作に引き続き参加しているブレインフィーダー所属のジャズミュージシャン達に加え、フライロー自身が奏でるシンセが主導するバンド・アンサンブル的なサウンドや、オーセンティックとも形容しうるソングライティングが目立っている。それらがフライロー独自のぶっ飛んだビートメイク/エディットと組み合わさることで、モダンでありながら、同時に古典的にさえ感じてしまう不思議な音楽が生まれていた。前作の方法論も入っているが、明らかにこれまでとは異なる雰囲気をまとってもいる。それでもどこからどう聴いても、フライローの音楽でしかない個性がそこにはあった。

現在制作中の『Jazz The New Chapter 6』のため、僕がアルバムリリース前に行ったインタビューで、彼は『Flamagra』を生み出すためにサンダーキャットやミゲル・アトウッド・ファーガソンといった仲間たちに音楽理論を学び、熱心に鍵盤演奏を練習したと語っていた。そこから僕は、『Flamagra』というアルバムのキーワードは「学習」もしくは「勉強」ではないかと考えていた。コルトレーン一家の血を受け継ぎながらサックス奏者としては挫折したものの、クレイジーで創造性あふれるビートメイクに開眼し世界を驚かせてきた奇才が、ジャズミュージシャン達の作品に関与した経験を経て、もう一度「音楽を学び直す」という道を選んだ。僕はその意味をもっと深く知りたかった。このインタビューは『Flamagra』論であると同時に、フライローによる「学習論」でもある。


今の俺は、ミュージシャンとしての技術を磨くことに集中してる

―まず最初に、前から疑問だったことを聞きたいんですが、フライング・ロータスの楽曲はスティーヴ・エリソンが作曲していますよね。で、映画『KUSO』の監督クレジットはスティーヴ・エリソンでした。スティーヴ・エリソンとフライング・ロータスという人格は、あなたの中でどう区別されているのでしょうか?

フライロー:なかなかいい質問だね(笑)。フライング・ロータスとスティーヴ・エリソンは同一人物だけど、名前が作品の内容を反映しているんだ。プロジェクトによってクリエイティブなアイデンティティを構築したいんだよ。映画を作ったときは、万人向けの内容ではないことは自分でもわかってたから、フライング・ロータス名義で映画を発表したら、決まった方向性の映画をファンに期待されてしまいそうだと思った。映画を観る前から、みんなは既成概念を持ってしまうだろうし、それは俺が作った映画の内容と必ず異なるものになってしまう。それに、名義を変えることで、『KUSO』のような映画を見たくない人たちをふるい落とせると思ったんだ。

―では、今の「フライング・ロータス」は音楽的に、もしくは人間的にどういうモードにあると言えそうですか?

フライロー:今の俺は、ミュージシャンとしての技術を磨くことに集中してる。ここ1年間は、今までになかったくらいに、伝統的な方法で音楽を勉強してるんだ。ピアノを習ったりね。だからある意味、俺は一からやり直していて、音楽を勉強をしたおかげで、新い表現が可能になったんだ。

―『Flamagra』を作るにあたって、鍵盤に関する演奏技術を学んだんですよね。あなた自身が鍵盤を弾き、それが特に効果的にハマっていると思う曲はありますか?

フライロー:「Takashi」だね。テクニカルなわけじゃないけど、あの曲を作った時は、初めて勉強していたことが報われた気がした。それに、作っていて楽しかったんだ。喜びの瞬間を捉えた曲だから気に入ってるんだよ。遊びながら作った感覚だったから、あの曲のことを考えると笑っちゃうんだ。そういう感覚で音楽を作れるのがベストなんだよ。



―鍵盤といえば、本作ではブランドン・コールマンがかなり大きな役割を果たしているように思いました。ブランドン・コールマンの『Resistance』は近年のブレインフィーダーにとっても重要なアルバムだったと思います。ブランドンのサウンドが『Flamagra』に与えた影響はありますか?

フライロー:彼は俺の音楽全般に影響を与えてるよ。彼は俺のピアノの先生の一人なんだ。もっと真剣にピアノを勉強しようと思ったのは、彼をしょっちゅう雇うのが大変だったからなんだ(笑)。いつも彼に連絡して来てもらうと大変だから、自分で演奏できるようになろうって思ったのさ。

―彼のアルバムの影響もありますか?

フライロー:彼はクラヴィネットの音色のキングだよ。彼がクラヴィネットを演奏しているのを聞いたとき、「この音色をずっと自分の音楽の中に入れたかったんだ!」って思ったんだよ。彼は独特な演奏をするし、いつもインスパイアされてるよ。


フライング・ロータスによるブランドン・コールマン「Walk Free」のリミックス。2018年のコンピレーション『Brainfeeder X』に収録。

―『Flamagra』はこれまでの作品の中でもファンク色が最も強いアルバムだと思います。あなたがこれまでに影響を受けたファンクはアーティストは誰ですか?

フライロー:最も影響を受けたのは、パーラメントだね。俺は毎日起きるとパーラメントを聴くんだ。朝にファンクを聴くと、1日の出だしが良くなる感じがするんだ。コーヒーとか飲みながら聴いて、いいリズムで1日が過ごせる。ファンクを聴くと、すべてうまく行く感じがするし、ブルースの要素が入ってるけど、どこか希望が持てるんだ。ザップ&ロジャーも大好きだね。「More Bounce To The Ounce」みたいな曲をいつか作ってみたい。

―特に好きなファンクのアルバムは?

フライロー:『Mothership Connection』とか『Funkentelechy』(共にパーラメント)は大好きだね。


ジョージ・クリントンをフィーチャーした『Flamagra』の収録曲「Burning Down The House」

Translated by Hashim Kotaro Bharoocha

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