「私たちがブリンクに出会った90年代のCDの匂いもちゃんとある」-(笑)ということで、そんなブリンクの新作『NINE』がリリースされます。LiSAさんはどういう作品だと思われましたか?もちろん新しいトライを毎作やっていることもすごいんですけど、それと同時に、昔からずっとブリンクが好きな人も置いていかない作品になっているのがすごいなと感じました。サウンドの手触りもビート感も変化しているのに、全体を通すと、私たちがブリンクに出会った90年代のCDの匂いもちゃんとある。ブリンクと言えばこれだよね!っていうのがちゃんと曲の中に入っていて。
-ブリンクと言えばこれだよね!というポイントは、LiSAさん的にはどういうところで感じました?あ、やっぱりお馬鹿なバンドでよかったな!って感じられるところですかね(笑)。6曲目(「Generational Divide」)っていう大事なポジションに、50秒で終わる曲が入ってたり。「え、終わった!?」って笑いましたから!
-ははははは。実際、90年代半ばにブリンクが登場したことによって、ポップ・パンクが若者の衝動を爆発させる遊び場になった向きはありますよね。それも、先ほどおっしゃった「自分らしく生きる」っていうパンクのメッセージが青春と合流したからこそのものだったと思うんですが。そうですよね。それこそキッカケとしては、そのお馬鹿感とか派手さに惹かれたわけですけど。でも当時から、そういうお馬鹿感だけじゃなくて曲としても繰り返し聴けたんです。それに大人になってから過去の作品を含めて聴くと、本当に音楽が好きなバンドなんだなって感じられるところがたくさん見つかるんですよね。
マーク(・ホッパス/Vo, Ba)とトム(・デロング/オリジナルメンバー。2015年に脱退)の声の絶妙な掛け合いとコーラスがあって、そこにトラヴィスのルーツであるヒップホップのビート感が合わさって。そういうバランスが他にはなかったんだなって。トムは脱退してしまったけど、今言ったようなブリンクのいいところは今回も健在だし、そのブリンクっぽさを3人自身が理解して今回の作品でもやってくれているのがうれしかったんですよ。だけどサウンドやリズムは幅広くなっている――そういう作品だと感じました。
blink-182:左からマット・スキバ(Vo, Gt)、マーク・ホッパス(Vo, Ba)、トラヴィス・バーカー(Dr)
-まさに。ギターの音色やメロディをはじめとしてブリンクらしさは詰まっていますけど、実はリズムが主役になったアルバムとしても聴けると感じたんですね。そうですね。リズムや音色の面で今の時代のものを吸収しながらも、「俺たちはブリンクをやり続けるんだ」っていう意思表明をしているような。そうやって「今の時代のパンク・ロックをやるんだ」っていう意志を見せてくれているのが、何よりブリンクを3人自身が大事にしているっていうことだと思ったんです。
たとえばロックやパンク自体が、本当に古いものになるのか、時代についていけるのか、っていう難しい時期にいると思うんです。それは、私自身が音楽を届ける側にいるからこそわかることでもあるんですけど。ちょっと前まではみんなラウド・ロックが好きだったのに、いつの間にか、みんなの音楽の聴き方が変わっているわけで。
-そうですね。それで「昔のブリンクの作品はどうだったかな」と思って過去作も聴き返したんですけど、今と昔でメロディや基盤は変わらないままでも、ちゃんとサウンドはアップデートされているのが『NINE』だと思ったし、今はちゃんと大人になった状態でブリンク節をやってるんだなって改めて実感できたんですよ。「今もブリンクを聴いてる」って言ってもカッコ悪くないサウンドというか。昔好きだったものを、「昔は好きだった」っていうものにしなくていいんだなって思わせてくれたんですよ。
-現在進行形のサウンドにちゃんと更新している作品だと。それによって、自分の原風景もまた愛せたりするし。そうだと思いますね。やっぱり「昔も好きだったし、今も好きだよ」って言えるのはうれしいじゃないですか。その変わらない部分と、ちゃんと時代についていく部分のバランスの大事さを自分も実感させられましたね。