──プロポーズを受け入れた靖子が、それからしばらく後に「今になって辛くなってきた」とつぶやくシーンが「ハッピーエンドの“後”の物語」を象徴していますね。蒼井:あのシーン切ないですよね。何か大きな出来事があると、後から心が追いついてきて辛くなることってあると思うんですけど、まさにそれ。それに、人がなにか「試練」を乗り越える時って、一つのことじゃ済まないなと思い知らされます。乗り越えるために、どれだけの時間がかかるか……。もちろん、映画の中で靖子も宮本も乗り越え切ってはいないし、人間と人間が生身で関わる人生ってこういうことなんだよなって。だからこそ辛いし、だからこそ素晴らしいのだということを、改めてこの作品に教えてもらいました。
©2019「宮本から君へ」製作委員会
──クライマックスでの、一ノ瀬ワタルさん演じる真淵拓馬との非常階段での「決闘」シーンも本当に圧巻でした。池松:一ノ瀬さん、まず撮影までに体重を33キロも増やしていますからね。しかも2ヶ月で。現場でも生卵を何十個と飲んでるんですよ。そうすると、寝返りうった時に上と下から出ちゃうこともあるんですって! そこまでやる人、なかなかいません。初めて聞きましたよ。今後は俳優が「〜キロ増量した」なんて軽々しくセールスポイントにしちゃダメだと思います(笑)。
しかも、もともと格闘技をされていた方だから体幹がめちゃくちゃ良くて。決闘シーンでは、こちらがいくらグラついてもガッシリと支えて下さっていたので、安心して身を委ねることが出来ました。ただし、ものすごく痛かったです(笑)。
蒼井:2日間で撮ったんだっけ?
池松:はい。でも、引きのカットで見ると、なんか階段で二匹のタヌキがじゃれ合っているようにも見えますよね。なんかもう、「動物になっちゃってたな」って思います(笑)。あの撮影が終わって1週間くらいは、階段から落ちる夢を何度も見ましたけどね。