the pillows 山中さわおが語るバンド30年の歩み「抜け出した方が人生はすごく居心地がいい」

売れる・売れない、ブレる・ブレない

―映画のストーリーにも出てくる、売れる・売れない、ブレる・ブレないっていうのは30年の歴史の中で経験していますか?

売れたくてブレたことが一瞬ありますね。僕はスピッツとミスチルと同期のような感じなんですけど、彼等は早々に大スターになっていった。あとは、年齢は上だけどウルフルズはちょっと後に出てきて、ウルフルズもドカーンと売れていった。そこから3〜4年経ってライブハウスでまだ50〜60人の前でやっていたミッシェル・ガン・エレファントがうちの事務所に来て、あっという間に人気でて(笑)。the pillowsだけがウルトラ低空飛行を続けていて、なんとも不甲斐ない気持ちというか。でも自分には音楽の才能があると思っていたし。そんな中レコード会社のディレクターの言葉にまんまと乗ってタイアップをとるために曲を書いたことがあります。でも、結局その曲も売れなくて、とても傷ついたし、自分にもがっかりしたし。それで、もうおしまいだなと思って書いた曲が「ストレンジ カメレオン」という曲で、それが結果その当時一番売れた曲となり、後にミスターチルドレンがカヴァーしてくれて日本のロック界の中ではちょっとだけ有名な曲になって、ターニングポイントになったんです。

―ええ。

ただ当時95年の終わりくらいでしたけど、結果が出ない自分にもイライラしたし、周りの大人の言うことも一瞬聞こうとしてしまったすごく嫌な思い出があるんです。けど、よくよく考えると多分3〜4カ月くらいのことなんですよね(笑)、この30年の中で。あとは好き勝手やってます。でも、その3〜4カ月が本当に消したい過去ではあります。ただひとつ付け加えたいのは、その頑張って売れたいなと思って書いた曲は「Tiny Boat」という曲なんですけど、いい曲なんです。今聴いてもいい曲で、恥ずべき曲ではないし、ファンの中でも人気があります。ただジャンルが今と違うのであんまり演奏してないんですけど、売れてもおかしくない曲を書いたなとは思ってたけど、まぁ結果が……。

なんかねぇ、キングレコードの人が“タイアップ取る!!”って鼻息荒かったのに、取ってきたのが関東ローカルの『とれたてガバッと』っていう情報番組で。しかも番組のエンディングにMCが喋っている後ろで流れているから「ん? これ視聴者に聴こえてるのかい?」みたいな感じで(笑)。しかもそのタイアップをどうしても取りたいからってリリース遅らせたんですよ。でもリリースを見越して「Tiny Boatツアー」を組んでいて、リリースが遅れたので「Tiny Boat」をリリースしないでツアーをやったんですよ。今思えば頭がおかしい。で、その後にキングレコードの皆さんが自慢げに取ってきたタイアップを観て「お〜い! 聴こえてるのかい?」っていう(笑)。「売れるわけあるかい、こんなもん」と思ってた。「もう辞めたらぁ〜!!」と思って「ストレンジ カメレオン」を作ったら、売れたという(笑)。

―そういう黒歴史もあったんですね。でも曲に罪はないですし。

うん。曲に罪はない。たしか、サザンとかユーミンとか聴いたはず、その時に。どういうふうに作っているんだろうと思って。3〜4カ月の多分そんなの1晩か2晩なんだけど。しかも、ややこしいのがサザンもユーミンも僕は元々好きだっていう(笑)。ただ自分がなりたいバンド像とは関係なかったから。理想とは違った。でも聴いたね。結果、何にも盗めなかった。仕組みがわかんなかった(笑)。そんな行動をとるくらい自分らしくない時期があったんだなとは思います。

―でも、とても人間臭いエピソードですよね。

まぁ、まだ26歳とかですからね。だけど周りの友達がみんな大スターになっていったので、やっぱ惨めだったのかな。『とれたてガバッと』のシールがCDケースに貼られてること自体恥ずかしかったもん(笑)。

―(笑)でも映画の中の主人公・祐介のあのエピソードは、さわおさんの体験ではなかったんですね。

あのシーンを書いている時はそのことを思い出してないですね。自分がリクエストと違うことやったデザイナーを怒鳴りつけたことの方を思い出してました。なんか……自分が可愛がっていた後輩が「やめろ!」って言っているにもかかわらず、事務所やレコード会社の言っていることに乗っかることにしたっていう話をよく聞いたんですよ。「絶対やめとけ。政治力を持っている大きな事務所ならいいけど、お前がいるような小さな事務所じゃ乗っかっても無理だから、ちゃんとやりたいことをやって一歩ずつ進みなさいよ」って言っているのに、言うこと聞かないで乗っかって、大滑りして、解散。そういうみっともないバンドが何個もいるんですよ。でも、その囁いてた人たちは責任とってくれないから。囁いていた人はレコード会社辞めないし事務所も辞めないから。自分とメンバーしか責任とれないよって言っているのに、乗るんだよね、みんな。

―なんで乗ってしまうんでしょうね? 焦りなんですかね?

結局ロックバンドとしては才能ないってことかな。人が憧れる男じゃないなと思いますね。でも、これ読んでたらどーしよ(笑)。今俺が思い浮かべてないヤツまで“俺のことか!?”ってなるかもね(笑)。でもよくあったんだよね、可愛がっているバンドでも。もうガッカリして疎遠になっちゃうしね。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE