the pillows 山中さわおが語るバンド30年の歩み「抜け出した方が人生はすごく居心地がいい」

30周年を経てthe pillowsが向かうべき場所

―映画の中では主人公・祐介が人生の第何期にいるのかが伏線として問われ続けていますが、the pillowsは30年の歴史の中で第4期に突入していますね。

自分らでは末期と呼んでいますけど(笑)。

―(笑)30周年を迎えてここから先また新しいネクストチャプターは考えていますか?

あんまそんな感じじゃないですね。とりあえず10月17日の横浜アリーナ公演で燃え尽きたいって感じで、そこからロングバケーションですよ。

―どういうことですか?

もうダラダラします(笑)

―そういうことですか(笑)。

横浜アリーナは相当頑張りたいんですよ。でも、その後はしばらくサボりたいかなぁ。何
も張り切らない。今年はアラバキロックフェスで僕らのアニバーサリーをやってセッションの舞台を用意していただいて、いろんな素敵な人、豪華な人に出ていただいた。中でも佐野元春さんに出ていただいて「Funny Bunny」を歌って頂きました。佐野さんがいらっしゃるということで、もうとてつもない緊張があるんですよね。普段だったらビール飲んで、他のバンド見て、ヘラヘラして、適当によろしくって感じで、ステージに立っていたいのに、ちゃんとしなきゃならない(笑)。そのおかげで想像し得なかったような、音楽人生のご褒美をいただいたような感動があったんです。だけどそこに行くまでは、ああなんかサボりたいなっていうか、こんな長いことやってまだこんなにハードルを越えなきゃならないんだっていう。いやぁ、もう逃げたいわって感じかな、最近は。でもやるとなったらそれはもちろん自分に納得したいので、サボるわけにはいかないからやるんですよ。だから横浜アリーナはステージに上がって、ステージから降りるまで、毎秒理想的な自分でいたいとは思っています。でもそのあとはちょっとサボりたい(笑)。酒呑んでライブやるような、なんの野望もない小さいところで、それを勘弁してくれる、甘やかしてくれるお客さんの前でやりたいなって感じですね(笑)。

―映画『王様になれ』という自分たちの音楽や人生が凝縮された作品を観て、あらためてthe pillowsというバンドをどんなふうに思いましたか?

切り離して考えることは難しいですよね。メンバー2人に満足しているかって言われたら、いつも満足していた訳ではないですし。でも幸せなバンドだなとは思っていますよ。ミュージシャンに好かれるミュージシャンとしては多分俺たちが日本で一番なんじゃないかなって思うんだけど(笑)。まあまあ好かれるミュージシャンいるけど、俺たちほどではないんじゃないかなって。同世代とか先輩と、下の世代の下の世代の下の世代までいくんで。コレっていうヒット曲もないのにすごく愛されたバンドという自負はあります。だから、ちょっと面白いバンドだったんじゃないかな。最初の10年はいろいろ模索して、その後はオルタナティヴロックに憧れて20年くらいやってきたけども、本物のオルタナティヴロック、日本で言ったらブラッドサースティ・ブッチャーズとは明らかに違う。そういう本物の匂いはしない。曲も切り取り方によっては普通にポップミュージック、ロックバンドと認識しにくいポップでキャッチな曲もあるっていうバランスがよかったのかなって思います。

―映画のタイトル『王様になれ』は劇中でも使われているthe pillowsの曲なわけですが、映画のタイトルは?

後から僕が決めました。

―このタイトルにした理由は?

これは単純な理由で、もともとは主人公のキャラに合う、そしてthe pillowsの代表曲のタイトルにしたかったんです。ただ、the pillowsの曲って英語のタイトルが多くて。でも日本の映画になるんだから日本語がいいよなと思って。すごく少ないんですよ、日本語のタイトルが(笑)。で、「王様になれ」が言葉としては強いと思ったし、祐介のキャラクターにも合うなと思って『王様になれ』にしました。

―その「王様になれ」という曲に込めた思いとは?

思い通りにならないことっていうのは当然人生に誰しもあるもの。でも努力で抗えることと努力で抗えないことがある。抗えることは俺は抗いたいんですね。がんばりたいというか。でも抗えないこと、例えば時が経つとか、生物が死ぬとか、もう絶対的に抗えないものがある。で、抗えないことで憂鬱になっている時間は本当に無駄だなと思って。特に自分も年齢をどんどん重ねていって、いろいろ肉体的な変化も起きるし、抗えないこともこの先出てくるであろうと。その時に自分を幸せにする方法は、いかに脳みそを使って騙しきるかというか。抗えない憂鬱をどう角度を変えて楽しい方に目を向けて生きていくか。ここからは脳みそしかないなって思ってこの曲を作ったんです。まぁ「王様になれ」はエゴをコントロールした上で幸せになろうよ、ふさわしく生きていこうよっていうテーマです。若い時から僕はエゴのコントロールが本当に苦手で、メンバーともスタッフも含めてちゃんとコミュニケーションとれなかったので。遅ればせながら当時に比べて大人になったなと自分では思っているんですね。まだまだ祐介のような若者でいろいろ苦しんでいる人がいるんだったら、別に若者じゃなくてもいいんだけど、俺は抜け出したよって。抜け出した方が人生はすごく居心地がいい。それを伝えたかったのかな。

―『王様になれ』、あらためていいタイトルですよね。

王様になれって、別に傍若無人な振る舞いを寛容する意味ではないです。エゴのコントロールがやっぱりすごく大事で。それはバンドという集合体は本当にそうです。the pillowsはそれが優れたバンドだとは思ってます。若手をプロデュースしていると主張がすごいなっていう(笑)。脇役にまわる人はいないのかね、みたいな。主役だけのドラマって成立しないんで。それに関しては真鍋くんとシンイチロウくんはすごく優れてるかな。

―でもさっきメンバーには満足してないとも言ってましたよね。

僕は元気いっぱいに音楽をやってるんですよ(笑)。でも、2人とも僕より年上、56歳と54歳なので、もう情熱が少ない。そこに関しては多分そういうミュージシャンの方が多いんだろうなって。いろいろ眺めていて情報としては理解できるけど、でもそのままではダメでしょっていう感じですかね(笑)。それを「いいよ」と言うわけにはいかない。認めるわけにはいかないですね。

―さわおさん、映画のままですね(笑)。10月17日の横浜アリーナが楽しみです。

僕自身、楽しみっていう感覚はないです。やってやるぞって感じですね。楽しむぞ!なんて余裕はないし、僕はリラックスして立とうとは思ってない。いつも通りの自分で立とうとは思ってないです。特別なものとして、帰りみんなが無言になるくらい(笑)。1万人が無言になるような気合いが入ったライブをやりたいと思っています。



<INFORMATION>

『王様になれ』
シネマート新宿ほか、全国順次公開中
監督・脚本:オクイシュージ
原案:山中さわお
主演:岡山天音
配給:太秦
https://ousamaninare.com/


『王様になれ オリジナルサウンドトラック』
the pillows
キングレコード
発売中

Thank you, my highlight05“LOSTMAN GO TO YOKOHAMA ARENA”
日時:2019年10月17日(木)
会場:横浜アリーナ
open 18:00 / start 19:00
http://pillows.jp/p/



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