白人至上主義者の新たなシンボルが誕生「マッシュルームカット」が暴力を呼ぶ

極右過激派は、暴力を呼びかける合言葉にディラン・ルーフの髪形を採用(Photo by Grace Beahm/AP/Shutterstock)

白人至上主義者の中でも極右過激派の新たなシンボルが誕生した。可愛いはずの「マッシュルームカット」が、今アメリカで暴力のシンボルとなってしまったのはなぜなのか?

数年ほど前までは、マッシュルームカットといえば親に髪を切ってもらった幼児や、1990年代の子役スターの間でよくみられたダサいヘアスタイルだった。ところが名誉毀損防止同盟(ADL)の最新レポートによると、この数年でこの髪型は極右過激思想家から、人種差別や過激な暴力といった背筋の凍るシンボルと見なされるようになっている。

ADLは木曜午前、ヘイトグループらが使用する200以上ものシンボルを収蔵したデータベースを更新したと発表した。ご満悦顔で両手を揉みしだく商人を描いた反ユダヤ的な風刺画「邪悪なユダヤ人(Happy Merchant)」や、始めは4chanや8chanのおふざけだったのが、のちに白人至上主義運動で憎悪のシンボルとなった“OK”サインの絵文字などと並んで、新たにマッシュルームカットがデータベース入りしたのだ。2015年にサウスキャロライナ州チャールストンのエマニュエル・アフリカン・メソジスト監督教会を襲撃し、9人を殺害した白人至上主義者、ディラン・ルーフの髪型だ(2017年、ルーフは州刑法殺人罪を認め、現在は9件の仮釈放なしの終身刑で服役中)。

GabやDiscordといったプラットフォームで展開する白人至上主義者のチャットルームでも、マッシュルームカットが様々な形で登場している。ルーフの髪型を加工して、別の人の顔に重ねた白人至上主義的なミームはよく見かけるし(ルーフの髪型をSSの軍章と重ねたものは特に人気)、中にはルーフの頭の周りに後光やオーラを加えて、強調しているものもある。マッシュルームカット[英語でbowl cut]は、白人至上主義者の中でも過激な少数派たちの合言葉になっている。自分たちのことを“bowl gang”と呼んだり、他の言葉に挿入してbrotherをbowltherと呼んだりしているのだ。BowlCastと題した白人至上主義者のポッドキャストまである。もちろんルーフのトレードマークにちなんだ名前だ。

マッシュルームカットの台頭は、髪型そのものとは全く関係ない。あの髪型がクールで魅力的だから惹きつけられているわけでもない。実を言うと、多くの意味で、あの髪型がバカげているからこそ、白人至上主義者のシンボルとして人気を得たといえる。ADLの「過激派調査センター」の主席研究員マーク・ピットキャヴェッジ氏は、ルーフのマッシュルームカットをヒトラーの口ひげに例えている。はたから見れば滑稽だが、独特であるがゆえに模倣の対象となりやすい。だが、このシンボルの台頭は、ルーフを神格化しようという白人至上主義者の間で高まりつつある流れと密接に絡み合っている。

ADLでは2017年ごろから、白人至上主義者がマッシュルームカットを自分たちのアイデンティティに結び付けていることに気がついていた。ちょうどチャールストン教会の銃撃事件から数年後のことだ。このタイミングが非常に重要だと、ピットキャヴェッジ氏は言う。というのも、チャールストン銃撃事件の直後には多くの白人主義者がルーフを非難する、あるいは彼の行動に否定的だったからだ――必ずしも倫理的な理由からではなく、暴力によって自分たちの運動がいらぬ詮索を受けてしまうと信じていたためだ。

Translated by Akiko Kato

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