「ジョーカー」誕生から新作まで、全ヒストリー完全ガイド

ダークネスの復活

TVシリーズの人気の陰りと共に、TV版のドタバタスタイルを踏襲していたコミック版も、徐々に1940年代のルーツへと回帰していった。コミックス倫理規定が緩和され、創造力豊かな新たな世代が登場したことも後押しした。1973年発行の『Batman』251号では、作家のデニス・オニールとアーティストのニール・アダムスが4年ぶりにコミックシリーズへジョーカーを登場させた。さらに特筆すべきは、30年以上ぶりにジョーカーに殺人を犯させた点だ。クラウン・プリンス・オブ・クライムが、再び好き放題に殺人を始めたのだ。

アーティストのアーヴ・ノーヴィックと組んだオニールは、『Batman』258号(1974年)に初めて、アーカム・アサイラム(精神疾患のある犯罪者用の収容施設)を登場させる。また1975年には、ジョーカーを主役とした初めてのシリーズも始まった。以来ジョーカーはレックス・ルーサー、トゥーフェイス、ペンギンなどのヴィランとも協力しながら、DCユニバース全体の大黒柱として君臨し続けている。

1980年代の注目すべき4つのジョーカー・ストーリー

しかし1980年代後半は間違いなく、出版におけるジョーカーの絶頂期といえるだろう。フランク・ミラーによる1986年のバットマン・シリーズ『The Dark Knight Returns』はひとつのジャンルを確立した作品で、ここからジョーカーの絶頂期が始まった。暗黒の未来を描いた同作品では、「引退状態」にあったバットマンとジョーカーが、以前にも増して強力になって復活する。作家兼アーティストのミラーは不穏な演出を使って、ヴィランとしてのジョーカーを大量殺人者に仕立てた。そしてジョーカーは笑う。たった一度だけ。アミューズメントパークでの激しい戦いの後、ジョーカーは自分の首を折り、バットマンに殺人の濡れ衣を着せようとしたのだ。

クラウン・プリンスは現在に至るまで、強敵バットマンの脇役たちをじわじわと侵食し始めている。ジョーカーのストーリーを語った最高の作品は(作者は強く否定しているが)、ムーアとボランドによる『The Killing Joke』(1988年)だろう。同作では、ヒーローとヴィランの共存関係を強調している。コミックを再評価させるきっかけを作った『Watchmen』を発表したばかりのムーアは、『The Killing Joke』でジョーカーの前身とされる「レッド・フード」のオリジン・ストーリーを復活させた。同作品でレッド・フードは、身重の妻を支えるために強盗を働く不幸なコメディアンとして描かれている。作品中の最も残酷な暴力は、精神を病んだコメディアンが、ゴッサム・シティ警察本部長であるジム・ゴードンの娘バーバラ(バットガール)の身体を不自由にしてしまうシーンだ。



同じ年、バットマンの重要な相棒であるロビンは、さらにひどい目に遭っている。作家ジム・スターリンとアーティストのジム・アポロによる『A Death in the Family』の中でジョーカーは、2代目ボーイ・ワンダー(ロビン)のジェイソン・トッドをバールで激しく攻撃し、最終的には爆弾で殺害してしまう。ジェイソンの生死に関しては、読者がホットラインへ電話して投票ができた。ジョーカー自身は、結果に満足していたことだろう。

ジョーカーが主役級で登場する4つ目の作品は、空想作家のグラント・モリソンとマルチメディア・アーティストのデイヴ・マッキーンによる『Arkham Asylum』(1989年)だ。同名のビデオゲームシリーズが数十年後にリリースされている。2人はジョーカーを、暴力の神のように描いた。バットマンは最悪の敵たちがいる建物に潜入するが、作戦中に気が狂いそうになる。ジョーカーを扱ったストーリーの中でもどろどろした幻想的な悪夢のような作品で、ジョーカーは骨まで凍るようなキャラクターに描かれている。

Translated by Smokva Tokyo

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