「ジョーカー」誕生から新作まで、全ヒストリー完全ガイド

クラウン・プリンスのハリウッド進出

大々的な宣伝の後で1989年夏に公開されたティム・バートン監督の映画『バットマン』では、ジャック・ニコルソンがジョーカーを演じたが、正にはまり役だった。ブルース・ウェインと変身後のバットマン役を演じたマイケル・キートンによる独特の演技よりも、ニコルソン演じる冗談好きで芸術作品を破壊するような犯罪組織の親玉の方が前面に押し出されたのも、当然だろう。ニコルソンは、シーザー・ロメロ版ジョーカーに不安定さを混ぜ合わせた。「おぼろ月夜に悪魔と踊ったことがあるか?」などというせりふは、ニコルソンでなければ似合わないだろう。錯乱して威嚇する真に迫った演技だった。(ポール・ディニとブルース・ティムによる評価の高いアニメシリーズ『Batman: The Animated Series』(1992〜95年)では、誰がジョーカーの声を担当したか知っているだろうか? 誰あろうルーク・スカイウォーカー、つまりマーク・ハミルだった。彼は常に自分自身の中にダークサイドを持っていた。)


ティム・バートン監督『バットマン』でジョーカー役を演じたジャック・ニコルソン(1989年)

約20年の後、ニコルソンが一般に植え付けたジョーカーのイメージは、クリストファー・ノーラン監督の映画『ダークナイト』でジョーカー役を演じた故ヒース・レジャーによって、ようやく塗り替えられることとなる。ジョーカーの演技が評価されたレジャーは、亡くなった後にアカデミー賞を受賞した。コミック同様、オリジン・ストーリーは矛盾している。(『The Killing Joke』を除き、DCはクラウン・プリンスの「正式な」オリジン・ストーリーを確定しておらず、虐待の被害者から不死身の人間まで、さまざまな説がある。) 多くのファンにとってジョーカーは、気の狂った天才であり、ジョン・ウェイン・ゲイシー(※訳注:キラー・クラウンと呼ばれた米国の連続殺人犯)であり、或いはニヒルなカオスのエージェントなのだ。

DCユニバースのスーパーヒーロー映画のひとつ『スーサイド・スクワッド』(デヴィッド・エアー監督)では、ジャレッド・レトがジョーカーを演じた。やせ細ってタトゥーだらけの脇役ジョーカーは、派手でシックな格好をした麻薬の売人的な風貌だった。そんな雰囲気がつり合うのはジョーカーがかつて愛したマーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインだけだろう。控えめに言えば同作品は、アイコン的なジョーカーのキャラクターを活かしきっていない。もちろん、コミックファンと映画ファンのどちらのジョーカー人気も損なうことはなかった。しかし、ジョーカーを演じるには、クスクス笑ったりニヤリとグロテスクに笑うだけでは足りないということが証明された。

Translated by Smokva Tokyo

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