ビリー・アイリッシュについて、知っておいて絶対に損はしない20の事柄

1stアルバムが歯の矯正機器を外す音から始まる理由

7:
1stアルバム『WWAFAWDWG?』が
歯の矯正機器を外す音から始まる理由

ビリー・アイリッシュの作品や活動のすべてに共通しているのは、あらゆる既存の制約から解き放たれようとする身振りだと言えるかもしれない。それを象徴しているのは、1stアルバム冒頭に収められている13秒のスキット「!!!!!!!」だ。冒頭の自然音はビリー自身がずっと使っていた歯の矯正機器を外す音を録音したもの。アメリカに暮らすティーンにとっては長年コンプレックスの象徴であり、今も日常に根強く残っているルッキズムの象徴でもあるだろう。この、歯の矯正機器を外すという行為は1stアルバムのレコーディング前の儀式になっていたという。「ほら、外したよ。さあ、アルバムの始まり」と言いながら、兄と一緒に大笑いするスキットから始まるこの作品は、あらゆるインヴィジブルな制度からの解放を表象していると言ってもいいだろう。

8:
恋愛、死、セレブリティになることーー
あらゆる「初めて」についてのアルバム

英国のガーディアンは、このアルバムには彼女にとっての「あらゆる生まれて初めての経験」がテーマになっていると分析している。あるいは、初めての経験であるがゆえの恐怖と言い換えてもいいかもしれない。明晰夢、夜中に突然目を覚ました経験、金縛りについての描写が頻出し、恋愛、身近な人の死、自分がセレブリティになってしまったこと、そんな初めての体験に接した時の恐怖が等価で語られている。いまだどちらもグロテスクな夢と現実にはっきりとした区別がつかなかった子供時代と、自らの社会的な役割に没頭することで根源的な恐怖をすっかり忘れてしまえる大人との境界線ーーそんな場所で立ちすくむしかない「ティーン」というリアリティ。彼女は、50年代からずっとポップミュージックの主題であり続けた「ティーン」という概念を2010年代という時代に即した形で、今一度更新させたのかもしれない。

9:
ポストジャンルの時代に生まれた
ジャンルブレンディングな音楽性

元ニルヴァーナのデイヴ・グロールが「彼女の音楽を定義するのは難しいんだ!」と熱っぽく語る通り、ビリーの音楽性はポストジャンルの時代特有のジャンルブレンディングなものだ。ニューヨーク・タイムズ曰く、「21世紀にまずインターネットから火がついたアイデアを繋げたもの」「ポップのように聴こえ、ヒップホップのようにストリーミングされる、エッジーでジャンル分け不能な(しかしプレイリスト・フレンドリーな)フュージョン」。音楽評論家の田中宗一郎は、「まず彼女は時代が作ったアーティストだということ。2010年代に起こった急激な変化とバリエーションが眼前にあって、そこから自分の個性に繋がるエッジーな部分だけをピックアップしてみただけとも言える」と前置きしながら、「ラップもロックもポップもゴスも今の時代のすべてを飲み込もうしてる」と、最大公約数でありながら独自のものだと位置付けている。

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