『ゲーム・オブ・スローンズ』が描いた「対立と分断の時代」を田中宗一郎が分析

最終シーズン全6話を作り直すための嘆願に120万人近い署名を集めた

2010年代はまたポピュリズムの時代でもあった。今や作品や作家、産業全体の隆盛の鍵をすっかり掌握することになったファン・カルチャーもまたポピュリズムの一形態だと言えなくもない。だが、やはりファン・カルチャーによって栄華を極めたこの作品の最終シーズンには大半のファンの願いを踏みつける、誰もが望まなかった悲惨な展開が待っていた。その結果、それまでは100点満点を連発、どんなエピソードも90点台を叩き出していたロットン・トメイトーズでの評価に軒並み破格の低評価という汚点をこの作品に残すことになる。このバックラッシュの気運は最終シーズン全6話を作り直すための嘆願に120万人近い署名を集めるまでに至った。

だが、最終エピソードにはこうした結果を見越したかのような台詞が忍ばせてある。「誰ひとり納得してる者はいない。ということはつまり、良い妥協案だったという証拠かもしれない」。だが、多種多様なグレー色をしたいくつもの妥協の声は、数値化されたYESとNOによって対立の構図に書き換えられた。これこそが我々が暮らす世界の姿ではなかったか。この終幕後の大規模な余波という現象を通じて、『GoT』という作品は今という時代のグロテスクさを改めて描き出すことに成功した。この壮大なインスタレーション・アートのような結末こそがこの作品最大の功績に違いない。



Edited by The Sign Magazine

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