スティーヴ・ジャンセンが語るジャパン時代、「静かに音楽を作ってきた」40年の歩み

2019年9月27日、エグジット・ノースの一員としてビルボードライブ東京に出演したスティーヴ・ジャンセン(Photo by Masanori Naruse)

70年代末から80年代初頭にかけて圧倒的な人気を誇ったバンド、ジャパン。とりわけ日本では、本国イギリスに先駆けてブレイクしたこと、解散後もメンバーが坂本龍一や高橋幸宏、高木正勝といった先鋭的なアーティストと共作・共演を重ねていることから、その名の通り、日本とは浅からぬ縁を築いてきた。そんなジャパンのドラマー、スティーヴ・ジャンセンが、「エグジット・ノース(EXIT NORTH)」という新しいバンドを組んで来日。大阪と東京で公演を行なった。

ライブはなんと今回が「世界初」だそうで、日本ならではのプレミアムな趣向として、チェリストの徳澤青弦が率いるカルテットと、映像作家の菱川勢一がジョイン。洗練された音と映像でエグジット・ノースの魅力を最大限に引き出し、昨年リリースした1stアルバム『Book Of Romance』の再現に止まらない、上質でロマンティックな時間を愉しませてくれた。また、セットリストの中には、かつて兄のデヴィッド・シルヴィアンをボーカルにフィーチャーしたソロ曲「Playground Martyrs」や、ジャパン時代からの盟友リチャード・バルビエリとのユニット=ドルフィン・ブラザーズの「My Winter」など懐かしい曲も。スティーヴがドラムを叩く姿が久しぶりに見られたことも嬉しく、彼のことをずっと追い続けてきたファンにとっては、これまでの彼の歴史を(ダイジェストながら)辿りつつ、同時に、このユニットの今後の可能性も感じる忘れ難い夜となった。

兄に引き込まれる形でこの世界に入って早40年以上……ミュージシャンとしての人生は決して順風満帆と言えるものではなかったが、抗わず、気負わず、飄々と歩んできたスティーヴ。決して熱弁を振るうタイプではないが、穏やかな語り口の中にもしなやかな強さと、未だ少しも衰えることのない音楽への静かなパッションを感じた。また、インタビューでは、この来日に際して、ジャパン解散以降の出来事をまとめた彼らの評伝(『JAPAN 1983-1991 瓦解の美学』アンソニー・レイノルズ著)が刊行されたこともあり、ジャパン時代のことも少し語ってくれている。




2019年9月27日、ビルボードライブ東京に出演したエグジット・ノース(Photo by Masanori Naruse)


ミニマルな“間”へのこだわり

─エグジット・ノースの『Book Of Romance』は、とても美しいアルバムですね。

スティーヴ:ありがとう。

─この作品、そしてあなたの『Slope』(2007年)以降のソロ作を聴いていると、「演奏していない部分」を大切にしている印象を受けます。引き算に次ぐ引き算で、無駄なもの一切を削ぎ落としたという感じですね。

スティーヴ:そうだね。必要なものを残し、不必要なものを削ぐ、そのバランスは常に重んじているよ。メッセージを伝えるときは、少ない言葉で伝えた方が効果があると思うんだけど、ミニマルなものが大きな効果をもたらすという点で、音楽という手段はメッセージを伝えるのにすごく向いているんだよね。エグジット・ノースのメンバーは、そのバランスに対する考え方が似ているんだ。音楽における“間の取り方”がね。



─元々伝統的なポップ・ミュージックに従事していたあなたが、“静寂”や“間”の美しさに目覚めたのは、何がきっかけだったんですか。

スティーヴ:多分ジャパンの終盤じゃないかな。音を研ぎ澄ます作業は、その頃から始まっていたんじゃないかと思う。あるものを一旦分解して、不必要なものを省いていく作業——具体的には『ブリキの太鼓』(1981年)を作った頃だね。あの頃は新しいやり方を模索していた時期で、自分たちにとって必要なものだけを残し、意味を成す、必要なピースだけを組み合わせていくジグソー・パズルのようなことをしていた。それがうまく組みあわさると、より良い“間”を残すことが可能になってくるんだよね。



─無駄なものをどんどん引いていくと、最後に「表現の核」が残りますよね。あなたの場合、それは何だと言えますか?

スティーヴ:自分がどんなメッセージを伝えたいかーーそのエッセンスだと思う。僕らのやっていることは“解体作業”で、シンプルなものだけを残していく。例えばピアノとヴォーカルだけでストレートに伝えることはできるけど、それをさらに突き詰めて、要らないコードはないか、要らないビートはないか、そういうものを外すことによって、音像に余裕が生まれ、音楽がより呼吸できるようになっていくんだ。いわゆるポップ・ミュージックの世界というのは、ガンガンぶつけてくるものが多いだろ。若い人にとってはそれが直接的に伝わる手段だし即効性があるということでいいと思うけど、僕らはそういうアプローチではなく、音楽が呼吸する様をリスナーに感じてもらいたいと思ってるんだ。リスナーの呼吸と音楽の呼吸が合わさる瞬間もね。じわじわと伝わればいいと思っているよ。

─実生活でも、不要なものはどんどん切り捨て、シンプルに生きる方ですか?

スティーヴ:そうだね。僕はいわゆるミニマルな生き方をしているな。気に入った写真ぐらいは置くけど、取り立てて部屋を飾ったりはしないしね。ガチャガチャしている状態では落ち着かないんだ。

─そうは言っても、本当に必要なものってどうしたらわかるんでしょうね。

スティーヴ:本当は必要のないものを必要だと思い込み、それに依存していくーー誰しもがその罠に陥りがちだよね。僕の場合は3~4年前に引っ越しした時がいい機会だったんで、長年溜まりに溜まったものを捨てたんだ。おかげで新居での生活はリフレッシュした状態で始めることができたよ。

Translated by Kazumi Someya

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