マキタスポーツが語る、「音楽」と「お笑い」を融合させた芸への道

「やっていること自体は、そんなに大きく変わってなかったんですけどね。『覚悟』みたいなものが決まったのかなと思います。それまでの自分は、お客さんが押してほしいツボを絶妙にズラしてたんですよ。スウィートスポットにスパーンと当てるのではなく、独自のことをやり過ぎてとっ散らかっていたものを、『オトネタ』とはっきり看板を打ち立てたことによって、分かりやすくなったのもあると思います。届くべきところへ届く努力というか、そこに向き合うことをちゃんとしてこなかったのは、『照れ』もあったんでしょうね。ベタ過ぎるのはイヤだと思っていたし……。そんな自意識いらねえよ!って感じじゃないですか(笑)。まあ、年齢もあると思いますね。ピン芸人になった2008年の時点で僕、38歳だったわけですし、2人目の子供も生まれていましたし」

そうした自身の心境や環境の変化に加え、2011年3月11日に起きた東日本大震災によって「お笑い」の雰囲気も大きく変わったと彼は指摘する。

「それまではネタコンテンツも沢山あったし、2010年までは『M-1グランプリ』もあった。それが3.11を境に一度終止符を打って、次の時代のお笑いのシーンに変わったと思うんですよね。そこの裂け目に僕がポンと出てきたような感じもありました。お笑い芸人なのかミュージシャンなのか、俳優なのかよく分からないのが、なにやら風変わりなことをやっている。オトネタなんてマニアックな芸だと思うんですけど、それが受け入れられたのはそういう背景もあったのかなって」


Photo = Mitsuru Nishimura

ここ数年は役者の仕事がメインだったが、昨年音楽活動20周年を機にしばらく休止していた「オトネタ」のイベントも復活。今後はコンスタントに続けていくつもりだという。

「ベッキー騒動が起きた2016年以降、芸能界はずっと激震が走っていますよね。これまでの業界の常識が通用しなくなってきているというか。そんな中、既存のフォーマットには収まりきらないような『オルタナティヴな道』を模索していきたいと思っているんです。特に音楽活動など自分自身のクリエイティヴな部分に関しては、大きな組織に任せず守り抜いていきたいですね」

そう言いながら、タバコに火をつけたマキタスポーツ。愛用しているシャグ用のローラーで、時間があるときに1本ずつ巻いて、専用のケースにストックしているという。

「吸うのは仕事の合間が多いかな。原稿執筆や音楽制作がひと段落して、思考をサボりたいときに一服します。最近、若い連中は加熱式タバコに移行してしまって、紙巻きタバコはめっきり減っていますよね。俳優業界はまだ吸っているヤツも多いけど、お笑い芸人やミュージシャンはほとんど吸ってない。『いつまでタバコなんか吸っているんだ?』っていう、ダメの象徴みたいにされることもありますよね」と笑う。

「それでも喫煙所の『吹き溜まり感』というか(笑)、コミュニケーションをいい具合にサボっている感じは好きですね。お笑いって、全てが機能的で、意味のある会話の世界なんですよ。『フリがあってオチがある』みたいな非常にロジカルな世界の中にいるので、そこから逃避する場所は必要なんじゃないかって。それに、今この時代にタバコを吸い続けている人というのは、よほど意志が強いか繊細か、どちらかのような気がします」


マキタスポーツ
本名・槙田雄司。1970年1月25日生まれ、山梨県出身。ミュージシャン・芸人・文筆家・役者。“音楽”と“笑い”を融合させた「オトネタ」を提唱。各地で精力的にライブ活動を行う。著書に『越境芸人』『一億総ツッコミ時代』『すべてのJ-POPはパクリである』などがあり、2019年3月には出版業界初の公式便乗本『バカともつき合って』を出版。その独自の視点は“食”にも向けられ「10分どん兵衛」を提唱し、話題を集める。役者としては2012年の『苦役列車』の他、『おんな城主 直虎『忍びの国』『みんな!エスパーだよ!』など多数の出演作がある。
https://makitasports.com/

ロケ地協力:CHARLIE ROSE

Photo = Mitsuru Nishimura

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