モータウンのレジェンドを描いたミュージカルが「社会的」な意味を帯びた理由

『Ain’t Too Proud – The Life and Times of the Temptations』(Photo by Matthew Murphy)

伝説のモータウン・グループ、テンプテーションズの伝記ミュージカルが米ブロードウェイで上演中だ。

結成メンバーで最後の存命中のメンバー、オーティス・ウィリアムズの1988年の追想録『The Temptations』を元に脚本ドミニク・モリッソ、演出デス・マカヌフによって制作された『Ain’t Too Proud – The Life and Times of the Temptations』 。アメリカの音楽史に名を残すソウル・コーラス・グループの成功と衰退、そして復活を描く。彼らは1960年代から70年代にかけて美しいハーモニー、素晴らしい振り付け、そして数々のヒット曲で一世を風靡した。

伝記ミュージカルでありながら、『Ain’t Too Proud』はヒット曲を流すだけのミュージカルとは一線を画す。「音楽に説得力を与えている」と出演者のデリック・バスキンはローリングストーン誌に語る。メンバーの喜びも悲しみも見せることで曲にどういう気持ちが込められたか、そして彼らがどういう 時代を生きていたかを表現した。この作品は「テンプテーションズと、彼らを取り巻く公民権をめぐる運動や、自分たちで曲を書かせてくれなかったり、反戦を表現させてくれなかったりした音楽業界の保守的な姿勢など、いくつかの社会的な要素をつないでいる」とローリングストーン誌記者のデイヴィッド・ブラウンは綴っている。

「誰も彼らを社会的な側面から語ったり、彼らの哲学が国全体の社会にどう結びついているかを語ってこなかった」と脚本のモリッソは言う。舞台の中で「白人の観客が理解したと思ったら、もう彼らに反論することはできないんだ」と、ベリー・ゴーディ(演じるのはジャヒ・キアース)が、グループが社会的な意味を込めた表現をしようとして悩む場面で語る。「『テレビの』黒人。『ラジオの』黒人。『社会派の』黒人とは違うんだ。観客が理解できるような音楽を提供しなくてはいけないんだ。でなければ見放されて、今までがんばってきたことが全て無駄になってしまう」

ライターのサラ・ホルドレンがニューヨーク誌で書いたように、「テンプテーションズはもっと社会派なバンドになりたかったんです。彼らが住む世界に対して積極的に異を唱えたかったんです」

例えば、ノーマン・ホィットフィールドとバレット・ストロングが書いた「War」は1970年にビルボードHot 100で1位を獲得したエドウィン・スターのヒット反戦曲として有名だ。しかし、この曲は元々テンプテーションズがデモヴォーカルを入れていたにも関わらず、自分たちの曲としてリリースできず、ひどく悲しんだ。その後、グループはこの曲を取り戻し、魅力に気づき、良い反応を返してくれる観客の前でやっと披露することができた。しかし後に、「Ball of Confusion(That’s What the World Is Today)」の頃にはテンプテーションズはモータウン・レコード創設者のベリー・ゴーディを説得し、より社会派な曲を出せるようになったということも覚えておきたい。この場面も作中で再現されている。

Translated by Mika Uchibori

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