『誰も知らない』から『真実』まで、是枝裕和監督が見てきた「女優」のあり方

是枝裕和監督(Photo by Hana Yamamoto)

『万引き家族』がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。世界各国で高い評価を受けるなか、是枝裕和監督の新作『真実』は初めて国際共同制作された。パリを舞台に母と娘の関係を描いた本作は、フランスを代表する女優、カトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュが共演した話題作。日本を飛び出して、新たな挑戦に挑んだ是枝監督に話を訊いた。


ーカトリーヌ・ドヌーヴとは初顔合わせですが、いかがでした?


是枝:朝、撮影現場に入って来た瞬間から、「お疲れさま」って帰って行くまでの一挙手一投足が、そこにいるすべての人の注目を集める人でしたね。映画にキッチンのシーンがあるんだけど、そこで(ドヌーヴが演じるファビエンヌが)動き回りながら言いたいことを言って、鼻歌を歌いながらいなくなる。あんな感じでした。すごく自由で軽やかで魅力的。

ー大女優って感じですね。

是枝:朝、楽屋に呼ばれるんです。だいたい、ドヌーヴさんは遅刻して来るんだけど(笑)、楽屋に行くとメイクをしていて、そこで今日撮影をするところの台本を開いて「ここはこう言いたいわ」「ここはこのほうがいいと思うのよ」っていうやりとりをする。そんな話をしながら、「そこのブルーベリー、市場で買って来たから食べて。美味しいわよ」って言ったりするわけ。それがなんかチャーミングなんだよね。だから「まあ、いいか、遅刻のことは」ってなる。



ー完全に場を支配してますね(笑)。お芝居に関してはいかがでした?

是枝:ドヌーヴさんは自分の芝居がどうこうよりは、作品全体を俯瞰して見ながら、ここは笑いがほしいのか? もう少しシニカルにした方がいいのか? 作品の世界観をきちんと見極めて芝居をしていく。そういうところは(樹木)希林さんに似ているかな。ただ、立ち位置は違いますね。ドヌーヴさんはいつも作品の中心にいるから、作品のトーンは彼女が決めていく。撮影中に一度、「(この映画の)編集したものが観たい」って言われたことがあって。「自分が出てない、男達の芝居が観たい」って言われて、それでDVDを渡したんだけど、そしたら「あなたのセンスとかリズム、男達の芝居のトーンとかがよくわかった」って言ってましたね。


ファビエンヌ・ダンジュヴィル役を演じるカトリーヌ・ドヌーヴ  photo L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3


photo L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3

ーそうやって作品全体を俯瞰して見ているんですね。そのなかで自分の演技のバランスをとっていく。

是枝:現場に入って、その日の自分の調子とか、天気とか、相手の役者の力量とか、いろんなことのなかで自分の芝居を決めていく感じでした。

ーファビエンヌはドヌーヴにあて書きしたようなはまり役でした。撮影する前にドヌーヴにインタビューされたそうですが、そこで彼女から聞いた話や、そこで感じた彼女の性格みたいなものは、ファビエンヌのキャラクターに反映されていますか?

是枝:いくつか入ってますね。例えば「フランスには自分のDNAを受け継ぐ女優はいない」っていうセリフは、脚本が出来る前にさせてもらったインタビューのなかで、彼女からポロッと出て来たひと言。「これは使えるな」と思って、そのままもらいました。まわりから見ると「本人そのままなんじゃない?」って思われるけど、本人は「ファビエンヌと私は全然違う」って言ってましたね。「私は娘との関係は良好だし、豹柄のコートに豹柄の靴なんて履かない。そんなセンスが悪いことはしない」って(笑)。

ーでも、似合っていましたね(笑)。

是枝:豹柄を用意したのは、衣装の人があえてちょっとずらして持って来たんです。ファビエンヌは、ほんとはセンスがよくはない、みたいなところが、ドヌーヴさんには面白かったみたいですね。あと、ファビエンヌの言葉の端々に皮肉が入る時に「こういう言い方をすると嫌われるわよ」って言いながら、楽しんでやっていました。

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