ハリー・スタイルズ密着取材「心の旅で見つけたもの」

ハリー・スタイルズ(Photograph by Ryan McGinley for Rolling Stone)

元ボーイズバンドのヒーローを密着取材。2019年のロックスターのあるべき姿がここに。

「セックスと孤独が新作のテーマなんだ」

ハリー・スタイルズはランチだからといってオシャレに手を抜かない。取材現場には白いヒラヒラの帽子をかぶり、グッチのサングラスにカシミアのセーター、ベルボトムのデニムといった格好で現れた。爪はピンクとミントグリーンのマニキュア。さらに、イエローのパテントキャンバスに“Chateau Marmont”のロゴが入ったポーチまで抱えていた。ビバリーヒルズのデリで働く頑強なマダムたちは、彼とはすっかり顔なじみになっていた。グロリアとライザは彼を可愛がって「愛しい人(my love)」と呼び、いつも通りツナサラダとアイスコーヒーを持ってきた。控えめに言えば、彼は周囲の注目の的。だが、ウェイトレスたちが彼のテーブルの周りをガードしているので、誰も近づけない。

ワン・ダイレクションで一躍時代のアイドルとなった時、彼はイギリスの小さな町で暮らす16歳の少年に過ぎなかった。バンドが活動を休止すると、2017年に野心的なソロデビューアルバムをリリースして我が道を歩み始めた。リード曲は実に見事な6分間のピアノバラード曲「サイン・オブ・ザ・タイムス」。ワン・ディレクションを知らない人々も、真実を目の前にして衝撃を受けた。絵に描いたような美少年は、実は根っからのロックスター気質だったのだ。



ハリーにとってここ最近の重要なトピックは、2019年のロックの殿堂授賞式。友人で、憧れの存在でもあるスティーヴィー・ニックスの祝辞で、会場から拍手喝さいを浴びた。「彼女はいつだって親身になってくれます」と、スピーチの中でハリーは言った。「相手が欲するものをちゃんとわかっているんです。助言なのか、ヒントなのか、ブラウスなのか、ショールなのか」。さらにこう続けた。「彼女は歴代の最悪な恋人よりも大勢の人々を泣かせ、マスカラを台無しにしました――僕のも含めてね」(バックステージでニックスはうっかり、ハリーが昔いたバンドを「イン・シンク」と呼んでしまった。まぁ、彼女ともなればこの手の間違いも許されよう)。

ハリーはもうかれこれ10年近く、世界のItボーイとして注目を集めてきた。彼が変わっているのは、Itボーイであることを愛しているということだ。アーティストの個性やクリエイティヴィティ、神経さえも容赦なく犠牲にするスター街道の真っただ中にありながら、ハリーは異様なまでに気楽に構えている。公衆の面前で、自分らしさは言わずもがな、少年らしい熱意を損なうことなく成長を遂げた。一連の有名人と浮世を流し――だが決して公の場で名前を明かすことはなく、かといってひた隠しにすることもなかった。スーパースターにありがちな道を歩む代わりに――超一流のプロデューサー陣、セレブリティの夢のデュエット、まばゆいクラブビート――彼はひたすら我が道を行き、以前よりも人気を集めた。いまは、彼が手がけた中でもっとも骨太かつソウルフルな楽曲が満載のニューアルバムの仕上げにとりかかっている。本人も言うように、「セックスと孤独がテーマなんだ」

Translated by Akiko Kato

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