黒人カウボーイ文化の今 リル・ナズ・Xが与えた影響

ベテラン・ロデオライダーのジャスティン・コリー・リチャード氏(Photo by Diwang Valdez for Rolling Stone)

「ロデオをやってなかったら、俺は腑抜けだっただろうな」とジャスティン・コリー・リチャード氏。リル・ナズ・Xのラップカントリーがヒットしたおかげで、ベテラン・ロデオライダーは新たな成功の道を歩み始めた。

リチャード氏はイーストロサンゼルス郊外の某酒場に座っていた。人気はなく、数人の常連客と、今しがたバーカウンターの我々の隣に座った常連客がもう1人だけだ。36歳のリチャード氏はヒューストン出身のアフリカ系アメリカ人で、プロのロデオライダー。西部劇からそっくりそのまま飛び出してきたような恰好をしていた。ブーツカットのジーンズに、装飾のついたバックルのベルト。履きこなした泥まみれのカウボーイブーツで堂々と歩く。ブーツは、拍車がついている以外これといった装飾はない。7月、我々はビールを飲む約束をして待ち合わせた。彼が用を足しに席を立ち、声の届かないところまで行ったところで、リノでフライフィッシングのインストラクターをしているという白人中年男性が身を乗り出してこう言った。「奴は本物のカウボーイじゃないぜ」

だとしても、精神といい、たくましい身体つきといい、おなじみの価値観といい、リチャード氏はまさに本物のカウボーイらしさを体現していた。

「ロデオをやってなかったら、俺は腑抜けだっただろうな」と彼は言い、18歳の時にプロの道へ進んだきっかけを詳しく語った。リチャード氏は翌日、ロサンゼルスのインダストリーヒルズ・エクスポセンターのグランドアリーナで開催される「ビル・ピケット招待選手ロデオ大会」に出場することになっている。1890年代にステア・レスリングを考案した元奴隷の息子の名前を取ったこの大会は、1984年にオークランド育ちのルー・ヴェイソンが、国内大会に出場するアフリカ系アメリカ人のカウボーイが少ないのを受けて立ち上げたものだ。現在運営を仕切っているのはヴァレリー・ヴェイソン=カニンガム。アフリカ系アメリカ人の女性でただ1人、ロデオのツアー大会を主宰する人物だ。LAの後はジョージア州コンヤーズ、テネシー州メンフィスと、来年まであちこち回り、決勝はワシントンD.C.郊外、メリーランド州アッパーマールボロで行われる。

Translated by Akiko Kato

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