フォールズがUKロック不遇の10年を乗り越え、無敵のアンサンブルで絶頂期を迎えるまで

フォールズ、一番右がヤニス・フィリッパケス(Courtesy of ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル)

サマーソニック2019での来日も記憶に新しいフォールズが10月18日(日本盤は10月23日発売)、2019年2作目となるニューアルバム『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 2』をリリースした。本作は今年3月に発表された『Part 1』に続く連作の後編となっている。2020年3月には来日公演も決定。本稿では、フロントマンのヤニス・フィリッパケスが答えたインタビューを交えながら、最新作を通して見えてくるフォールズの現在地を紐解いていく。


デビュー当時から不変のアティテュード

「これまで達成してきたものには今でも誇りを持っているよ。ちゃんとした“作品群”を作りたいとずっと思ってきたからね。単なる一発屋的ヒットじゃなくて、もっと深みを持たせたいんだ。それは多分達成できたと思うし、僕たちは誇りに思っている」

デビュー・アルバム『Antidotes』のリリースから約10年間の軌跡について、ヤニスはそのように答えている。この言葉は、フォールズがデビュー当時から持つ不変のアティテュードを象徴するものだ。

フォールズがデビュー・アルバムを上梓した2008年と言えば、アークティック・モンキーズの鮮烈なデビューを契機とするロックンロール・ブームの再燃が落ち着き始めた年。同年デビューの若いバンド達は一辺倒なロック・サウンドを捨て、それぞれに個性的で多種多様なサウンドを志向していた。その中で、フォールズが鳴らしていたのは、2000年代半ばに隆盛を誇ったダンス・パンクにマス・ロックの息吹を注入したようなアート・ロック。アルバム・デビュー前にリリースされたシングル「Balloons」と「Cassius」はスマッシュヒットを記録し、インディ・ダンス系のフロアで毎夜のように鳴り響くアンセムとなっていた。

デビュー作『Antidotes』は、シングル・ヒットの勢いそのままに制作・発表……というわけではなかった。同作はプロデュースにデイヴ・シーテック(TVオン・ザ・レディオ)を迎えて制作されたが、後にメンバー自身の手でミックスし直されている。当時、USインディ・シーンを代表する旬なプロデューサーだったデイヴ・シーテックの仕事に自らの手を加えたというエピソードは、デビュー当時のフォールズの理知的なイメージを補完するものでもあっただろう。





知性と肉体性を行き来するダイナミズム

その後、彼らは作品ごとに異なるプロデューサーを迎え、明確な方向性のもとで進化/深化を遂げていく。2010年にリリースされた2nd『Total Life Forever』では、ルーク・スミスの手を借りて、マス・ロック的なイメージを打ち破るアトモスフェリックかつユーフォリックなサウンドに挑戦。ロック不況のあおりを受けたのか、セールス的には振るわなかったものの、収録シングル「Spanish Sahara」がNME選出の2010年ベスト・ソング1位に輝くなど、批評面では大きく支持を広げるレコードとなった。

レディオヘッドと出身校が同じメンバーが在籍することも手伝って、最初は理知的でアート志向なイメージが強かったフォールズだが、一方で彼らはフィジカルに訴えかける演奏力を武器とするライブ・バンドでもあった。そのグルーヴ感覚を改めて作品へと落とし込んだのが3rd『Holy Fire』だ。同作は80年代から活躍する重鎮のアラン・モウルダーとフラッドがプロダクションを担当。ここで彼らはポスト・パンク譲りの直線的なビートから距離を置き、ゆったりとしたスケールで魅せるラウドなファンク・ロック・サウンドを展開してみせた。







ちなみに、アラン・モウルダーとフラッドはUK出身ながら90年代にナイン・インチ・ネイルズやスマッシング・パンプキンズの作品を手掛けたことで知られているが、ヤニスは最新インタビューでも「直接この作品に影響を受けたというんじゃないけど、大好きで一番よく聴いたのはスマッシング・パンプキンズの『メロンコリーそして終りのない悲しみ』とナイン・インチ・ネイルズの『Fragile』かな」と答えている。それらの作品に共通するのは、繊細さと暴力性、メランコリアとラウドネス、知性と肉体性の間を行き来するダイナミズム。フォールズも、そうした両極性を理想の一つとしているのは間違いないだろう。

フィジカルなグルーヴの追求はジェイムス・フォードがプロデュースした4th『What Went Down』(2015年)でも続き、その結果、彼らはアメリカでの成功も手にすることに。中でもシングル「Mountain at My Gates」は全米オルタナティブ・チャートで1位に輝いた。もともと熱しやすく冷めやすい傾向にあり、「2作目・3作目のジンクス」につまずくバンドが後を絶たないイギリスにおいて、2~3年ごとにきちんとアルバムを作り、結果を出してきたバンドはそう多くない。ましてや2010年代以降、イギリスではロック不遇の時代がずっと続いているのだ。着実なバンド活動の継続を通して、フェスのヘッドライナー・クラスにまで上り詰めたフォールズは、現在のロック・シーンでは例外的な存在であり、同時にロック・バンドの理想形の一つとも言える。




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