THE NOVEMBERS×Dos Monos×君島大空、「激動の2019年」を菅野結以と語る

深刻な社会情勢、映画『ジョーカー』への見解

─音楽以外でもいろんなことがあった年ですよね。社会情勢なども含めて。

荘子it:最近は、とにかく左派が無力になってしまったと思いますね。アートって本来もっと社会や政治に直結しているものだと思っていたけど、21世紀は別の形を取らないといけないのかなって。「音楽に政治を持ち込むな」とか最近よく言われているけど、ここ最近のアートは、政治との結びつきなんてマジでなくなってきてる。中には政治的なアティチュードを示す音楽家もいるけど、やることといえばデモに参加したり署名をしたり、音楽作品とはまた別の手段でしかやることができていない。

例えば今って、あまりにも国のやっていることが不条理すぎて。署名が回ってきたらするしかないんだけど、でも芸術家が、複雑な作品を作りながら、終わっている政権に対して超真っ当な主張を「署名」で伝えるしかできなんて、マジで「無力感」しかない。「お前、いつもあんな難解な作品作ってるのに、政治に対してできることって署名だけかよ?」って。

君島:死ぬほどわかる。

荘子it:署名とかデモとかより他に作品ですることだろ?って。表現の自由は当然守られるべきなんだけど、そんな当たり前のことを、芸術家が言わなきゃいけない状況そのものに俺は一番怒ってますね(笑)。

小林:「活動的なバカが一番怖い」って誰かが言っていたんですけど、「バカ」だと言葉が悪いから「野蛮な力」と言い換えるとして、そういうものが「知」の領域にまで浸透している空気は感じます。本当のこと、本質的なことを言っても、それが多くの人にちゃんと伝わらない状況が、もはや止められないくらい進んでいますよね。「声がでかい方が勝つ」というのは、ロックの文脈では美徳とされていた時期もあったし、ある意味本当のことだけど、今は、「野蛮さ」それ自体が声のデカさに繋がってしまうような空気が、社会を覆っていることが厄介だなと思います。

─例えば?

小林:例えば、アーティストが政治的な思想・スタンスと直結した作品を作ったとして、それをリスナーが膨大な作品の中から選び取り、そこで何かを感じて実際の行動に移していく……という一連の行為が、「デモへ行く」「署名する」というスピードに勝てないっていうことなんだと思う。

「こんな作品を作りました」と言っても、誰にも気づいてもらえないことが現実としてありますよね。しかも、それが政治的なメッセージを持っているかどうか、馬鹿でもわかるようにしておかなければ機能しない。表現の機微なんて、あっけなく透明な背景になってしまう。あからさまに「原発反対」とかそういう明確なメッセージを掲げないと、「社会や政治にコミットしている」とすら認識されないというか。作り手側も、同調圧力へのリアクションとして簡単に何かを発して「社会的・政治的な表現をした気になる」みたいなところに陥らないよう気をつけなきゃいけないなと思います。より良く生きる、より良く「社会する」ってことはとても大変なことですが、とにかく、知ること、学ぶことが改めて重要だと思う。

荘子it:そうなんだよね。「アーティストたるもの、投票くらいしろ」みたいな空気も、ある意味「同調圧力」だからね。投票なんてしたって何の意味もないんだから!……いや、投票はすべきなんだけどさ。「投票なんかしても意味がない」という厳然たる事実と、「投票はみんながすべき」という当たり前のことに引き裂かれ、耐えられなくなっている人がメチャメチャ多い気がする。だからこそSNSなどで、「投票しましょう」と呼びかけることでその重圧から逃れようとしているというか。

小林:政治的な発言をすることで、自分が慰められているという部分はあるのかもね。

荘子it:そうそう。俺もそうだよ。投票も署名もしてるけどさ。それは粛々とやっていかなきゃいけないんだけど。「とりあえず祭りに乗っかっておけ」では、それこそ『ジョーカー』と同じ世界だと思う。

小林:ゴッサム・シティが燃えている様子に、群衆はカタルシスを覚えてしまうわけだよね。僕が『ジョーカー』を観て思ったのは、ああやって悲しい過去を持つ「悪人」をヒロイックに描くことによって、自分の中の「負」の要素を、昇華するでもなく「負」のままで巻き散らかし、街が腐敗しきったとしても自分には「悲しい過去、辛い現在」というアリバイがあるから関係ないっていう態度を取る。そういう主人公の行動原理について強く批判している人もいたけど、映画ではそこを批判的に描いているんだと俺は思いたかった。だから自分は観られたのだと思う。ちゃぶ台ひっくり返したいのはわかる、でもこれはダメだと思わないと、ってとこまでの映画だと。「ゴッサム・シティが燃えていることにカタルシスを得ていいのか?」と。



菅野:『ジョーカー』、荘子itくんはどうだったの?

荘子it:俺はノレなかった。「わかる!」っていう気持ちと、今の空虚さを反映しているなあっていう気持ち。特に「空虚」については、俺ならどう乗り越えるかが最近のテーマです。

君島:「負」の要素といえば、最近はSNSを観ていても「負」の感情が渦巻いている状態ですよね。僕は敏感な方なので、そういうのを眺めていると自律神経がやられそうになる。今はTwitterがメディアとして最も力を持っているし、無視するわけにもいかないのだけど、TLに流れてくるツイートの中から正しい情報と間違った情報を見極め、選び取っていくというのがすごく徒労に感じて。

菅野:うんうん。私も疲れちゃうから、今は「どれだけ自分で正気を失えるか?」を考えていますね。

荘子it:はははは。ひょっとして結以ちゃんがジョーカーなのかも(笑)。だって結以ちゃんが好きな『哀しみのベラドンナ』とか『ジョーカー』と同じ話じゃない?

菅野:確かに(笑)。でも『哀しみのベラドンナ』が圧倒的に素晴らしいのは、映画の中で私の気持ちを昇華してくれるからなんだよね。だって、正気で生きていたらどうしようもないことだらけじゃないですか。何かに夢中になっている瞬間だけ正気を失って違うところへ行ける。そんな瞬間をどれだけ作れるのか、自分の活動の中でどれだけそれを表現していけるか? をいつも考えています。何か直接的に世界を変えられるわけじゃなくても、個人の世界はその瞬間に大きく変えられるから。そこを大事にしたいなと。

君島:僕も、一人の時間の純度の高さをもっと突き詰めたい。一人でハイになっている状態をどれだけ作れるかというのは、夏頃からずっと考えているし、きっと来年も考えていると思います。

荘子it:じゃあ俺は、この中で唯一「ハイにならなくてもいいんだよ?」って言う人になりたい(笑)。「幸せなんて追求しなくても、いい人生を送れる可能性があるんだぞ人間は」と。「理性を追求しすぎて、バカを見て狂気に走ってもいいんだよ?」っていう。それはジョーカーの「狂気」とは違うんですよ。何故ならあれは、人に強要される狂気だから。そうじゃなくて、一人で狂気に落ちるってある意味、めちゃめちゃ理性的で研ぎ澄まされたものだし、

─そろそろ時間が来てしまいました(笑)。今回でVol2を迎えた『LIVE DRAGON』ですが、この先も続けてほしいイベントです。

菅野:そうですよね。今回がVol2なんですけど、Vol100を目指して頑張りたいですね。

荘子it:今日のイベントで頑張ったら、次も出られる可能性ある? 来年の出場権をかけて、この3組で戦おうよ!

(全員笑)




TOKYO-FM「RADIO DRAGON -NEXT-」
TOKYO FM 毎週金曜27:00~29:00
パーソナリティ:菅野結以
Twitter :@RADIO_DRAGON
ハッシュタグ:#radiodragon
http://www.tfm.co.jp/dragon/


【THE NOVEMBERS】

「NEO TOKYO 20191111」
2019年11月11日(月)渋谷TSUTAYA O-EAST

「TOUR -天使たちのピクニック-」
2019年11月21日(木)京都MUSE
2019年11月22日(金)静岡UMBER
2019年11月24日(日)金沢vanvan V4

BAROQUE x THE NOVEMBERS「BRILLIANCE」
2019年12月1日(日)伏見 JAMMIN’
2019年12月21日(土)江坂MUSE
2019年12月25日(水)渋谷STREAM HALL

その他のライブスケジュール:
https://the-novembers.com/live/


【Dos Monos】


2019年10月発売のコンピレーション『SHIBUYAMELTDOWN』に新曲「Dos City Meltdown」で参加。
https://linkco.re/ZtFdVryn


【君島大空】

君島大空合奏形態 夜会ツアー「叙景#1」
2019年11月17日(日)京都 CLUB METRO
2019年11月18日(月)名古屋 今池 得三
2019年11月19日(火)渋谷WWW ワンマン
※全公演ソールドアウト

その他のライブスケジュール:
https://ohzorafeedback.wixsite.com/hainosokomade/live

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